幸せの終わり

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* 「38.5度。この状態で学校に来るの辛かったでしょ。保護者の方に連絡しましょうか?」 「大丈夫です…ちょっと休んだら一人で帰れます」 保健医に許可を得て保健室のベッドに横になる。 暖房が効いていて布団もふかふかで心地良い。 廊下に響く音やグラウンドから聞こえる声に耳を向けていると、うつらうつらと瞼が重くなってきた。 そのまま眠気に耐えれず、俺は意識を手放した。 「……でよ………い」 なんだ。 遠いところで声がする。 半分眠りながら気付いた。 これは、春太の声だ。 オレに何か言っているのだろうけど、分からない。 「……あゆむ」 名前を呼ばれ、汗で張り付いた前髪を優しくかき分けられる。 なんだよ、なんで来たんだよ。 オレあからさまに避けてたのに。 なんで優しくするんだよ。 春太の手が額に当てられる。 冷たくて気持ちがいい。 あやふやな意識のまま泣きそうになって目の端に涙が浮かんだ。 次に目が覚めた時、春太はいなかった。 代わりに俺の荷物が保健室に預けられていた。 「ピンクの髪の子と背の高い子が持って来てくれてたわよ」 時刻はすっかり放課後で、窓の外がほんのり暗かった。 あれから俺はぶっ続けで寝続けていたようで、何度か声をかけられたらしいが全然起きなかった。 「すみません…」 「いいのよ、でも体調に気をつけてね。早く帰りなさい」 まだ少し怠いが朝よりだいぶ身体が楽になった。 これなら明日には全快しているだろう。 体調が回復すると精神的にも余裕が出てくるのか、オレは二人とちゃんと話そうと思えてきた。 時間が経って記憶が朧げになってきたのもある。まだ少しショックは残っているけれど、ちゃんと話せば理解出来る筈だ。 それで二人のことお祝いしよう。うん、大丈夫。 「あゆむ」 「っわ!」 校門を出た辺りで突然声をかけられた。 驚いて振り向くと、鼻の頭を赤くした皇が立っていた。 一気にさっきの覚悟はどうしたのか、ドギマギしてしまう。 「こ、皇…待ってたのか?」 皇はコクリと頷く。 どのぐらい待ってくれていたのだろうか、あの寒さに弱い皇が。 どう切り出せばいいのかと迷っているオレに、皇はマフラーを外して俺の首に巻いてくれた。 「…一人だと心配だから送る」 「え…あ、ありがとう。でもこれじゃ皇が寒いだろ?」 「いい、暖かくして」 「う、うん…」 マフラーを付けることを強要され、オレは断ることも出来ずそのまま言うことをきいた。 オレのペースに合わせ皇が並んで歩く。 会話はない、けど朝よりも居心地は悪くない。 ちらりと横目で皇を見ると、寒さで赤くなった鼻と同じぐらい目元も赤かった。 え、もしかして泣いた跡? 聞けるはずもなく、二人揃って無言で歩いた。 行きと違って空いている電車の座席に座る。 そんなことしなくていいのに、皇はオレの荷物を持ってくれた。 気遣いが凄すぎて居た堪れない。 「…あのさ、」 唐突に皇が話出して、オレは思わずビクついた。 オレの反応にまた少し皇が沈黙する。 「……今日はあゆむの体調が良くないからやめるけど、治ったら話を聞いて欲しい」 こちらを見ずに話す皇。 その声は少しだけ震えていて、なんだか俺はすごく酷いことをしてしまったのだと思い知らされた。 「ハルも本当は一緒に行きたいって言ってたけど、二人だとまた逃げられると思って…」 「…っ」 「だから、今度はハルも一緒に話を聞いて欲しい…です」 なんだかオレの方が悪いことをした気分だ。 きっと春太も落ち込んでいるのだろう。 そりゃあんなプライベートなとこ見られたら恥ずかしいし、ショックだよな。 あの時オレが気を利かせてノックするか、皇の家へ行く前に連絡すればよかったのだ。 被害者は自分だと言わんばかりに傷付いて、感情的になって二人を避けて。 うわ、オレってめちゃくちゃ酷い奴だな! 「ごめん、オレもちゃんと話がしたいです。ハルにもそう伝えてくれる?」 おずおずと皇を見上げると、皇は潤んだ瞳でこちらを見て、ほっとしたように口元を緩ませた。
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