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全力のすれ違い
あれからもう一日休んで、オレの体調は全快した。
あれほどなかった食欲が嘘のように今はうどんとおにぎりをモリモリ食べている。
「はぁー…」
今日の放課後、春太と皇がウチに来る。
ちゃんと話をすると言ったものの、どんな話をされるのか。
きっと二人は付き合っていてその報告になるのだろうけど。
「どんな顔してお祝いしたらいいんだ…」
適当につけたテレビから流れるニュースを見ながら俺は呟いた。
お似合いだし、全然反対とかしないし喜ぶし、どこに惹かれたんだよ〜とかおちゃらけられる自信はある。
でもその後だ。
二人にとってオレはお邪魔虫で、あの三人でのルームシェアの話もきっと白紙になる。
そうすると三人で過ごすことも少なくなるのだろう。
「はぁあ〜…」
再度溜息を吐く。
嬉しいけど寂しい。
ずっと三人で一緒にいられると思っていたから。
離れ離れになることが怖かった。
*
「お邪魔します…」
「お、おー上がってけー」
約束通り皇と春太が来た。
春太はいつもの明るさがなく、ずっと俯いたままでこちらを見ない。
そんな春太を引っ張るようにして皇が先陣を切る。
オレはどう反応すればいいのか分からなくなって、変な返しをしてしまった。
二人をオレの部屋に案内して、ローテーブルを囲うように座らせる。
誰も何も言わなくて、非常に気まずい。
「ちょ、ちょっと飲み物持ってくるから…」
そう言って立ち上がると春太がウワッと泣き出した。
「き、嫌いにならないでぇ…っ!」
「へ!?!」
わんわんと泣き出す春太に混乱する。
こんな春太見たことない。
その隣で皇も目に見えて落ち込んでいるので、オレは更にあたふたしてしまった。
春太はその大きな瞳からボロボロと涙をこぼして、嫌いにならないでと繰り返している。
「ハ、ハル!嫌いになってない!なってないから!」
「うぐ…っ、ほんど?」
しゃくり上げる春太の目にティッシュを押し当てながら必死で頷く。
「でも避げだじゃ〜ん!うわーんっ!!」
「あ、あれは驚いて、気持ちの整理がつかなかったからで…嫌いになってない!」
勢いを取り戻した春太に慌ててそう弁明すると、やっと落ち着いたのか春太はぐすんぐすんと静かになった。
二日前までオレが泣きたい気持ちだったのに、この二人の落ち込み様はなんなんだ。
「皇もさ、そんな暗くならなくていいって。オレが二人のその…目撃して勝手にショック受けて、それで二人にどんな顔で会えばいいか分からなくなって、それで避けちゃって…謝るのはオレのほうだよ。ごめんな」
改めて二人に頭を下げた。
「それで昨日、皇も春太もオレの心配してくれたんだろ?酷いことしたのに、荷物も持ってきてくれて…ありがとう」
「あゆむ〜っ」
お礼を言うと益々春太の涙腺が緩んだ。
ぐずぐずになった春太の顔にふは、と吹き出す。
隣でうるうる涙を浮かべる皇と一緒にティッシュで二人の涙を拭った。
「それで、オレもちゃんと覚悟出来てるから、二人の話を聞きたいです」
とうとうこの時がきた。
オレはやけにかしこまって、正座をしながら二人に向き合う。
オレが持ってきた飲み物を飲んで落ち着いた二人も、お互いに目を合わせて頷き合った。
春太が意を決したように口を開く。
「ボク達実は…」
うんうん、付き合ってるんだよな。
「あゆむには隠してたけど、」
わかってる、そりゃ春太も皇も可愛いしカッコいいもんな。お似合いだよ。
「ずっと…っ!」
オレは二人の幸せを願うよ。
「「あゆむのことが好きだ/なんだ!!」」
「おめでと…え、なんて?」
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