飛び出し注意

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飛び出し注意

 今日は、少し遠い街まで出かけてきた。久しぶりの遠出は、私達夫婦に心地よい疲労感を与えてくれとても楽しかった。GW(ゴールデンウィーク)を過ぎると混雑感が薄れるので、比較的楽に時間を過ごすこともできた。  夫の康彦(やすひこ)くんが、後部座席の荷物を取りに車を降りる。  私は運転席のボタン操作で後部のスライドドアを開けた。 「便利になったよねぇ、玄関も開いたらいいのに」  私はそんな怠けたことを言いながら、運転席を降り康彦くんを手伝う。彼は、両手に大荷物で急げや急げと玄関へと向かい、私はリモコンでスライドドアを閉じた。 「私さ、初めてのリモコンてテレビだった。あれは感動したよ。だから玄関もそのうちやれると思う」 「ハハハッ、古いね、それ外で言ったら年バレるよ。はい、じゃ〜スタンバイお願い」  別に年は隠そうとしてないけど、昭和ネタはすぐ言っちゃうな。ただ、今の子たちは”チャンネルを回す”と言うのだろうか、「言わないんだろうな」と独りごちつつ玄関の鍵を……いや、ここは鍵をでしょ。  手持ちのバッグで、開けたドアに隙間を作らず足元を塞ぐための準備、これがスタンバイ。 いざ。 「(はる)ちゃん、ただいま〜」  我が家のひとり娘(猫)が飛び出して行かないようディフェンダーに徹する。これが、私の役目である。  過去にフォワードよろしく抜かれた実績があるからね。 「あれ? いないよ。珍しくない?」  私が言うと、康彦くんは半信半疑で、 「出迎えなしか、でも油断大敵だな」  警戒しながら玄関へと入っていく。私はドアを締め切るまで、いつ飛び出してくるかと心が落ち着かない。
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