呪術師は刑事たちの腹を探る

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呪術師は刑事たちの腹を探る

「私、悪いけどあなたのこと記憶にないね」  俺たちの前に現れるなりそう言い放ったのは、太い眉と浅黒い肌を持った外国人男性だった。  ――この男が『子供使い』か。 「そうですか……では私の思い違いかな?」  俺はわざととぼけながらこっそり『死霊ケース』の蓋を全開にし、『被害者』の反応をうかがった。 「失礼ですが『プルーティポーション』にいた方ですよね?何となく覚えがあるんですが」  俺がそれとなく水を向けても、マネージャーは首を振って「その店にいたこと、ありません」と言った。さすがに手強いな、俺が胸の内で密かに舌打ちした、その時だった。 「――嘘ツキ!」  突然、聞こえてきた声に虚をつかれ、俺は椅子の上でびくんと身体を震わせた。甲高い声の主は何と、膝の上のケースに隠れていた『被害者』だった。 「あなた、今何か言ったか」 「いや、その……」 「なんだか嫌な臭いする。生きてるけど生きてない者の臭い。あなた何か連れてきてないか」  俺はどきりとした。小型化した霊体の気配を嗅ぎつけるとは、やはりこいつは霊力を持っているのか。 「あっ、ここへ来る前に私たち公園に行ったんですけど、そこで鳩に餌をやったからその時の臭いじゃないでしょうか」 「鳩か……」  沙衣の説明を聞いたマネージャーが訝しむように目を細めた、その時だった。 「……サナ」  マネージャーの後ろに控えていたメイドの一人が、俺の方を見てぼそりと呟いた。  ――サナ?久具募早苗のことか?霊体の発した声に気づいたということは、この子は『被害者』を知っているのか?  謎めいた呟きを漏らしたメイドの目は、ガラス玉ではなく明らかに怯えの感情を宿した「人間」の目だった。  よし、今日のところはここまでだ。俺はケースの蓋を閉じると沙衣に目で「帰るぞ」と合図を送った。 「あ、そろそろ行かなくちゃいけない時間よ、あなた」  沙衣は突然、役割を思い出したかのように「奥様」になると俺をせきたてた。 「あ、ああそうだな。……ええと、どうも私の勘違いだったようなのでこの辺で失礼します。お騒がせしました」  俺と沙衣はマネージャーに一礼すると身を翻し、レジの方へと向かった。 「給仕料、合わせて三千円になります」 「あ、ここは私が払っとく」  沙衣は財布を出そうとする俺をさりげなく制すると、手早く会計を済ませた。 「行ってらっしゃいませ」  独自の接客用語で見送られた俺は思わず「それじゃ行って来る。留守をよろしく頼む」と、相手に合わせた口調で応じて店外に出た。
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