刑事は悪童たちにマナーを諭す

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刑事は悪童たちにマナーを諭す

「やれやれ、自分の「お屋敷」で冷や冷やさせられるとはな」  沙衣に自分の食事代を払いながら、俺は大いにぼやいてみせた。こんな事件でもなければおそらく一生、ドアを潜ることもない店だ。 「まあいいんじゃない?趣味のお店って感じで。ただ、高校生のアルバイト先としてはどうかなって思うけど」 「問題はそれだけじゃない。『被害者』に反応した子の顔を見ただろう?まるで憑き物が落ちたような顔だった。つまり他の子は……」 「あのマネージャーが催眠状態にしたまま働かせている……そういうこと?」 「久具募早苗の同僚だったという拘留中の少女は、こわくてサプリを飲めなかったという。つまり、逆に言えば暗示にかかっている子はためらわずに飲むってことだ」 「あまり女の子を追求すると被害者みたいになるってことね。じゃあやっぱり大元の『子供使い』を逮捕するしかないのね」 「ただの人間なら一課に任せるところだが、霊力を持ってるとなると百目鬼達の手には負えない。問題はどういう力を持っているかってことだ。ただの催眠術師ならどうにか……」  俺がそこまで言った時だった。路地の向こうに見えている目抜き通りへの出口を、どこからともなく現れた複数の影が通せんぼをするように遮ったのだ。 「……ちょっとそこを通してくれないか」  俺が声をかけると、二十歳そこそこと思われる若者が「いいよ。……ただその前にちょっと痛い思いをしてもらわないとね」と残忍な笑みを浮かべて意った。 「なんだと……」  俺たちの前に立ちはだかった人影は全員、若者だった。中には十代と思しき顔もあり、アジア系らしき顔もちらほらあった。 「脅しか。『子供使い』の差し金だな?」 「いらねえことをあれこれ聞きまわると碌なことにならないぜ、刑事さん」  ――俺たちが刑事だってことを知っていやがる。まずいな。 「下がってろポッコ。俺が説得する」 「説得って……そんなの聞くような相手なの?」  俺は沙衣を背後に下がらせると、両手をだらりと下げて丸腰であることを強調した。 「なあ、君たち何か勘違いしてるんじゃないか?俺たちは仕事でここを通っているだけだ。仮に俺たちが警察の人間だとしても君たちとは関係ない。そこを通してくれないか」 「そっちには関係なくても、こっちにはある。店のことを嗅ぎまわる奴は痛い目に遭わせても構わないと言われてるんだ」 「命じたのは『子供使い』か?それともやつの雇い主か?」 「答える義務はねえっ!」  路地に吠え声がこだまし、群れの中でもひときわ若く血の気の多そうな一人が俺の方に突っ込んできた。 「……仕方ねえ、少しばかり尻を叩かせてもらうぜ」  俺は少年が振り上げたバットを紙一重でかわすと、背後に回って手刀を叩きこんだ。 「――うっ」  俺は倒れ込んだ少年を地面に押しつけると、腕を捩じり上げた。 「痛ええっ」 「お前さんが持ってたバットで殴られたらこんな物じゃ済まないだろう。まずは痛みがどんなものかを知ることだ」  俺は少年を路肩まで引きずってゆくと、放置自転車のフレームに手錠でくくりつけた。 「面白い、俺たちにビビらねえお巡りは初めてだぜ」  リーダー格と思われる凶悪な目をした一人がそう言うと、脇で控えていた若者が光るものを取り出した。  ――こいつらただの不良じゃねえ。闇社会の手下になって悪事を働く愚連隊どもだ。  俺は腰の特殊警棒に手をやると、説得は諦めざるを得ないなと内心でぼやいた。
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