刑事は死神と解約不能の契約をかわす

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刑事は死神と解約不能の契約をかわす

 俺の本名は朧川六文だが、署内では「カロン」と呼ばれている。  カロンと言うのはギリシャ神話に出てくる三途の川の渡し守の名だ。なぜ俺がそんな不吉な通称で呼ばれているかと言うと、俺が「殺されても死なない」刑事だからだ。  実際、俺は何度となく銃撃で蜂の巣にされたりナイフでめった刺しにされたりしているが、本当の意味で「死んだ」ことはない。  これは体質の問題でも運不運の問題でもなく、俺が死神と交わした「契約」のためだ。  契約の具体的な内容は、こうだ。俺は不死身にさせてもらう代わりに、現世に漂う浮かばれぬ魂を死神に委ね成仏の手助けをする。成仏させた魂の数が一定数を超えることで、俺は死神に預けてある本当の魂を取り戻すことができるというわけだ。  俺の身体には『フェイクソウル』という偽の魂が入っており、時々エネルギーをチャージしないと本当に死んでしまい二度と生き返ることはない。  エネルギーは夢に出てくる大量のろうそくに火を灯すことで補充され、死神を呼びだして霊力を行使すると減ってゆく。  霊力は夜の方が強く、逆に日中は夜間より消費速度が速い。消費の度合いは俺の右手首に現れ、満タンだと手首が真っ黒になる。エネルギーが減るにつれて手首は白くなり、ゼロになる真っ白になり俺はめでたく成仏する、というわけだ。  こんな因果な体質になってからというもの、俺はあの世からやってくる者たち――亡者の気配を敏感に察することができるようになった。亡者が取りついている人間は目が赤く光ったり、背後から白や黒のもやが染み出て来たりするのだ。  俺に取りついている死神は諸君にもなじみが深いであろう、骸骨の姿をしている。死神は霊的物質である大鎌を初めとして、さまざまな攻撃用の武器を持っている。  現実の人間に危害を加えることこそできないが、敵の霊的攻撃を防いだり、人間に取りついている悪霊や魔獣を切ったり燃やしたりすることは可能だ。  ちなみに俺の同僚であるポッコこと河原崎沙衣には鳩の霊が、ケン坊ことケヴィン犬塚にはコヨーテの霊がそれぞれ「憑いて」おり、自分の宿主を霊的攻撃から守っている。  もし諸君が刑事と出会い、背後に大鎌を持った骸骨が見えたら、その人間は死神と契約した「死なない刑事」だと思って間違いない。  もちろん、死神が見えたということは亡者に取りつかれている可能性もあるわけで、その場合は遠慮なく憑いている霊を切ったり燃やしたりさせてもらうことになるのだが……  諸君が今度刑事と称する人物と会ったら、背後をよく見てみて欲しい。もしかしたらそいつは日々冥界の亡者どもと死闘を繰り広げている哀しき「不死の刑事」かもしれない。
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