刑事は休日を探偵のように過ごす

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刑事は休日を探偵のように過ごす

 ――そろそろ夕方だな。  繁華街にあるコンビニの駐車場で、俺は建物の影に身を潜めながらいかにも外回りの途中だというように携帯の画面を操作した。  俺は視界の隅に『ぽぴーしーど』の裏口を入れつつ、『子供使い』が出てくる瞬間を逃すまいと全神経を通りの向こうに注いだ。  俺が一課のやつらに例の餓鬼どもの情報を聞いて回ったところ、わかったのは奴らのボスと『ぽぴいしーど』のオーナーが同一人物であるという驚くべき事実だった。  ――チンピラのボスが飲食店のオーナーか。こうなったらそいつの居場所をつきとめて、『子供使い』にどういう指示を出していたのかをつきとめてやる。  俺がよれよれのコートに太いフレームの眼鏡、野暮ったいブリーフケースという格好に身を包んでいるのは、どうにかして営業中のサラリーマンに見てもらおうという苦肉の策だった。  俺を襲った半グレたちはどうやらSNSのみで繋がっているらしく、各グループのリーダーですらボスの居場所を知らない可能性があるという。だとすれば少々、危険を冒してでも『子供使い』の後をつけるしかない。  本来、刑事というのはよほどの事情が無い限り単独捜査はしないものだが、万が一、あの凶暴な餓鬼どもが現れたら沙衣やケヴィンがいるとかえって危険が増えてしまう。  俺はあれこれ考えた挙句、非番を利用して独自の行動をとることを決めたのだった。  『ぽぴいしーど』の裏口から人影らしきものが現れたのは、俺がまるで関心のないネットニュースを横目で眺めていた時だった。人影は二つで一方は『子供使い』、もう一方はなんとケースの中の『被害者』に反応したあの少女だった。  ――なぜあの子だけを?  俺が訝っていると、『子供使い』はどこか心もとない様子の少女を伴って通りを歩き始めた。俺は二人が傍らを通り過ぎるのを待ち、そっとコンビニの敷地を出て後を追った。  二人は路地を抜けて目抜き通りに出ると、しばらく徒歩で移動を続けた。場合によっては車で追うことも視野に入れていた俺は、二人が急に足を止めて通りに面したカフェに吸い込まれるのを意外な思いで眺めた。  ――普通の店員教育か?……いや、そんなはずはない。  俺は二人が窓際の席に陣取ったことを確かめると、店内が見えそうな場所を物色し始めた。やがて向かいにイートインスペースのあるベ-カリーがあることを発見すると、捜査のやり方を尾行から張り込みへと切り替えた。  ――単に何かをレクチャーするだけなら『ぽぴいしーど』の店内でもできる。わざわざ外に連れ出したと言うことは、店内ではできないような何かを画策しているということだ。  俺はコーヒーと共にカウンターの一番端に陣取ると、クロワッサンをかじりながら通りの向こうを透かし見た。やがて『子供使い』がはっとしたように顔を上げたかと思うと、一人の若者が二人の前に現れた。  ――なんだろう。新しいマネージャーとの顔合わせだろうか。  俺は首を傾げつつ、いつでも飛びだせるようそっと身構えた。やってきた若者は二人を向かい側に座らせると、まるで指示でも与えるように『子供使い』に何かを告げた。 「☓☓▽△##」  『子供使い』は承知したと言うように頷くと、二人をその場に残し店の外へと出て行った。『子供使い』の姿が店内から消えると、若者はテーブルに身を乗り出して少女に何かを語り始めた。  ――えっ?  紙コップを置こうとした俺の手が止まったのは、少女と若者がテーブルを挟んで見つめ合った直後のことだった。若者の身体から黒いもやが立ち上ったかと思うと、人とも獣ともつかない禍々しい形になって少女の身体をすっぽりと包みこんだのだった。
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