9人が本棚に入れています
本棚に追加
不死の刑事は呪いの力に立ち向かう
「若返りサプリってことは、年寄りが飲むわけだろう?そんな非合法な成分が入った者を飲んで、身体には影響ないのかな」
「年寄りのことはわからん。だが、少女が亡くなったということから考えて、年少者の身体に危険をもたらす物質である可能性は否定できない」
「なるほど、確かに「子供の死」を名乗る奴にふさわしい薬だ。……ますます許せねえ」
「署としてはできれば「子供使い」の背後にいるオーナー、さらにはオーナーに指示を与えている「本丸」を引っ張り出したいところだろう。しかし俺たちが動かなかったのにはそれなりの理由がある」
「何だ?呪いが怖いのか」
「ある意味じゃ、その通りだ。やくざはともかく「ピーズコネクション」の実態がまだよくわかっていないんだ。噂じゃ呪術師の一族を抱え込んで、敵対する組織の人物を次々と「呪い殺して」いるという」
「まるでホラー映画だな」
「侠獣会も元は武闘派のやくざだったが、危険組織に指定されることを怖れた一部の構成員が初代の組長と血の気の多い組員を謎の力で皆殺しにしたらしい」
「そんなことをして平気なのか。内部分裂を引き起こすだけだと思うが」
「ところがその、クーデターを画策したというアジア帰りのインテリ組員が、穏健派のナンバー2を二代目組長に据えて自分はブレーンとしてちゃっかり生き残ったらしい」
「つまりそいつが組織の黒幕ってわけか」
「たぶんな。以前は乱暴なシノギが多かったらしいが、今じゃサプリの販売に飲食チェーンが主な事業だという。サプリに使われていた物質は現地で「呪仙草」と呼ばれている植物で、「ソーマメディカル」にはこいつを栽培するための農園があると言われている」
「下手に黒幕に近づこうとすると、謎の呪術で殺されるってわけだ。こいつは剣呑だ」
「結局は違法薬物の方向から攻めるしかない。だが、なかなか尻尾が掴めず攻めあぐねてるってのが現状だ」
「よくわかったよ。捜査一課が俺たち特務班に久具募早苗の件を洗い直せと圧力をかけてきた理由は、本丸を落とすための情報――少女殺害とサプリ、それに「子供使い」の情報をなるべく危ない橋を渡らずに入手したい――そうだな?」
「人聞きの悪い言い方だな、カロン。何度も言うが俺からは何も答えられんよ」
「あいにくと疑うことが仕事なんでね。悪く思わないでくれ」
「気にするな。俺も同じ稼業だ」
俺は百目鬼にねぎらいの言葉をかけると、捜査一課を後にした。
――くそっ、ますます不愉快になってきたぜ。なにが「子供の死」だ。
俺は久具募早苗のあどけない顔を思い出し、死神の吐息のような黒い呟きを漏らした。
最初のコメントを投稿しよう!