刑事は少女たちの無念を預かる

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刑事は少女たちの無念を預かる

「私の話……聞きたいの?」 「ああ、なんでもいい、思いだせることがあったら頼む」 「協力……したい……でも……何も思いだせない」  本気で困っている霊を前に、俺はこの辺でいいだろうとポケットから『死霊ケース』を取り出した。このケースはシガレットケースほどの金属の箱で、地縛霊から霊体の一部を切り離して持ち運ぶための箱だ。 「このあと君を、あちこちに連れて行って知っている人たちと会わせようと思う。もしよかったら身体の一部を小さく切ってこの中に入れてくれないか」  俺が頼むと、早苗はこくんと頷き身体から十センチほどの小型霊体を切り放した。 「うまいな。初めてとは思えないよ」  ミニチュアサイズになった早苗の霊がケースにするりと潜りこむと、俺は「それじゃあ今日のところはこの辺で失礼するよ。協力ありがとう」と言ってケースの蓋を閉めた。 「私……帰りたい」  本体の早苗はゆらゆらと哀し気に揺れると、路地に吸い込まれるように姿を消した。 「やれやれ、年少の「証人」に聞き込みをするのは精神的にきつい物があるな」 「そうっすね。俺もあの若さで死んだら、受け入れられないかもしれないっす」  俺は「行くぞ。捜査は始まったばかりだ」と言うと、ため息をついて項垂れているケヴィンの背中をどやしつけた。                 ※ 「捜査一課特務班の朧川だ。よろしく」  取調室に現れた少女は、俺を見るなりびくんと肩を動かした。 「俺はは取り調べ担当の刑事じゃあない。ちょっと聞きたいことがあるだけなんだ。楽にして貰って構わない」 「…………」  俺が柔らかい口調で語りかけても、少女は石像のように動かなかった。 「亡くなった久具募早苗さんとは、知り合いなんだよね?よかったら彼女と一緒に働いていた時のことを聞かせてもらえないかな」 「私とサナが働いていたのは『プルーティ―ポーション』っていうお店で、接客の女の子は全員、十代でした。オーナーはめったに見たことなくて、私たちの面倒は「マティ」っていう外国訛りのマネージャーが見ていました」 「そのマティって言うマネージャーのことなんだが……」  俺はポケットから『死霊ケース』を取り出すと、テーブルの下でほんの少し蓋を開けた。 「マネージャーが、何か?」  少女は俺が昔のことを掘り返そうとするのを明らかに警戒していた。 「子供使いっていう言葉を聞いたことはないか?」 「……ないです」  少女は即座に、しかし微かに怯えを含んだ声で答えた。
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