少女たちは生と死の狭間を見る

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少女たちは生と死の狭間を見る

「そうか。……これは取り調べの時にも聞かれたと思うんだが、店では女の子たちに『アポトス』っていうサプリのような物を配っていたね?」 「……はい」 「飲んだことは?」 「ないです。他の子が飲んでいる時でも、私は怖くて飲むふりだけしてました」 「早苗さんの事件とそのサプリに、何か関係はあると思う?」 「――わかりません」  少女は防戦一方を決め込んでいるのか、俺の問いかけはことごとくはねつけられた。 「じゃあ質問を変えよう。早苗さんは、死にたがっていたと思うかい?」 「それもわかりません、ただ……」 「ただ?」 「マネージャーに「何か月か我慢すれば向こうの世界に行けるよう、取り計らってあげる」って言われたらしいです」 「向こうの世界?何かなそれは。思い当たる事はある?」  少女は無言で頭を振ると、「よくわからないですが、人は死んだ後も生きられる、むしろ生きている時よりも死後の方が強い力を手に入れられる」って言う事みたいです。だから死ぬことは怖くないんだって」と言った。 「強い力……か」  死後も生きられる、というのはカルトの常套句だが、少女の話から俺はそれとも違う何かを感じ取っていた。 「知っている子の中に、「向こうの世界」に行って戻ってきたっていう子はいる?」 「……いません。だからそのマネージャーの話って言うのも、どこまで本当だか私にはわかりません」 「なるほど、ありがとう。……最後に、そのマネージャーとは今でも連絡は取ってるのかな」 「いえ……お店を辞めた後、向こうから「また連絡する」っていうメールが来たんですけど、返事をしないまま放っておいたらそれっきりになりました」  少女が知っていることをほぼ話し終えた、その時だった。膝の上の『死霊ケース』がふいにがたがたと動き出した。同時に少女の目がはっとしたように見開かれ、周囲をきょろきょろと見回し始めた。 「どうかしましたか?」 「いえ……すみません」  少女は明らかに「見えないなにか」を感じたらしかったが、それが何なのかはこの世ならぬ者が見える俺にもわからなかった。 「協力ありがとう。ごたごたが終わって元の生活に戻ったら、向こうの世界のことやサプリのことはいったん忘れた方がいい」 「はい……そうします」  俺は礼を述べると、まだ不安げな影を横顔に貼り付けている少女をその場に残し、取調室を後にした。
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