多分、俺だろう。

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 そんなとき、彼にハッと(ひらめ)くものがあった。  それは「ヴァウ」だったかも知れないし、「ボフォ」だったかも知れない。「ンアヴ」だったかも知れないし、どんなに研究が進んだって突き止められやしない言葉でしょう。  けれど、強いオスが支配する群れにおいて、リーダーがもっとも必要としたものは、名前でも肩書でも役職でもなく「俺」だったと思うのです。  俺に従え。俺についてこい。俺の食い物を()るな。  つまり、ウッホウッホしていた猿の中で、ただ一人が「俺」という一人称を作り、下位の者より優位に立った、とは言えませんかね?  そう、『俺・解禁』です。  そして猿は良いことも悪いことも真似る動物。 「そうか。俺のことは俺と呼ぶのか。そうしたら他のヤツより偉いんだ」  なーんて思ったかどうかは分かりませんが、一人、また一人と「俺」を解禁していきました。だから私は、ヒトが初めて意図的に使った言葉は「俺」だろうと思うのです。  勿論、まったく違う言葉だった可能性は高いですよ。現代と意味は違っても、「スマホ」と言った可能性は拭えないし、「プレイボール」だったり、「上手出し投げ」だったりした可能性もあります。地球で生まれ、最初にヒトが話した言語が判明したら、その言葉がブームになることは間違いないでしょう。
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