麻雀少女青春奇譚【財前姉妹】完結!

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11巡目 ◉ファミレスにて 「カンパーイ!」 カチン  学生3人はドリンクバーのコーラとメロンソーダで。メグミは中生で乾杯した。  ゴクッゴクッゴクッ!と1人生ビールを飲むメグミはどこかオッさんぽくもあるが、大人の女性の色っぽさもあり魅力的に見えた。 「…っはーー!ウマい!」  メグミはテーブルに4分の1の大きさに折って敷いたおしぼりの上に中ジョッキをゴン!と置くと今日の事を話し始めた。 「まず、マナミは最強。まじでつよい。アンタには才能を感じる」 「えへへ〜。そうですよねえ」となぜかカオリの方が喜ぶ。 「あんたら2人はさっさと上位リーグに上がって麻雀界を盛り上げちゃいなさい。今の調子なら出来るでしょ」 「がんばります」 「んでぇ。井川さん」 「はい!」 「最終戦だけ見てたんだけど、素晴らしいわね。特筆すべき点はふたつあったわ」 「ど、どこでしょう」 「ちょっと紙とペンない?」 「あります」とカオリがスッと差し出す。カオリは何かあればすぐメモ書きして自分のノートに書き込む習慣があるので筆記用具を持っていない時などない。ポケットの中には小さなリングノートとボールペン。それと小さな巾着袋。袋の中には赤伍萬が入っている。裸で持ち歩いていると、もし仮に対局中に病で倒れるなど不測の事態で気を失った場合にポケットを探った人がこれを見つけたらイカサマを疑うかもしれない。なので巾着に入れて持ち歩くことにしたのだ。 「ありがと」と受け取るとメグミはサラサラと牌姿を書いた。 三三四③④⑤⑥⑦⑦56799 ドラ5 「この形」 「あっ、私の五回戦東二局!」 「そう、井川さんはここから三を捨てたの」 「違いました?」 「戦術書を読めばこれはどの本も『⑦を切れ』『3面張を先に固定しろ』とバカの一つ覚えみたいに同じこと書いてあるわ。でもね、私はこういうのは三切りこそ優秀だと思うのよ。特に相手が強ければ強い程ね」  確かにこの形は3面張固定を先にしましょうと読んだ経験がカオリにもあった。それをカオリは疑いもしなかったが…。 「仮にね3面張を先に固定して3面張でテンパイする枚数は何枚?」 「12枚です」とマナミ 「そう、でリャンメンテンパイの枚数は?」 「11枚です」 「そうね、この12対11という数字を覚えていてね。じゃあ逆にリャンメンを先に固定して3面張でテンパイする枚数は?」 「8枚です」 「そうね、ではリャンメンでテンパイする枚数は?」 「15枚です」 「正解」 「で、そこから先が重要なんだけど。どちらを先に捨てても受け入れ枚数は同じ。だけど固定手順が3面張が先にだと12対11の可能性で11リャンメン残りとなります。その時には宣言牌跨ぎのど本命リャンメンです。相当な勝負手からでなければ出してもらえません」 「ふんふん」と3人は頷く。 「比べてリャンメン固定を先にしておけば8枚の3面張テンパイと15枚の先切りした牌跨ぎの強いリャンメンテンパイになる手順となります。どちらの方が安心できますか?ってことよ」 「たしかに前者は3面張が残ればいいけど先に埋まる可能性も半分近くあってその場合は弱いリャンメンテンパイ。コンピュータ相手のファミコン麻雀ならそれでいいけど対人となると、ましてやプロリーグでそれじゃリーチする気にもなれない。それに比べて後者は3面張確率こそ減らしているがリャンメンテンパイも強い捨て牌相となっているのでどちらに転んでも強くあれる」 「そういうこと!なので、井川さんの手順はとても頼もしい形を捉えていてバランスの良さを感じました。これがひとつ」 「も、もう一つは?」 「もう一つはーーー 「お待たせ致しました。和風ハンバーグご注文のお客様」 「私でーす」とメグミ。 「若鳥の唐揚げ定食のお客様」 「はあい」とマナミ。 「もう一つは食べたあとでね」 「はい」  メグミは中央に盛られた大根おろしを広げると、ナイフをまず全体に入れた。 (先に切っとく派か。メグミさんらしいな)とカオリは思った。 「いただきます!」  和風ハンバーグを幸せそうに頬張るメグミは動物のようであり。色気もあれば小動物のような可愛げもある。こんな大人になりたいな、と感じながらカオリはメグミをジーッと見つめていたのだった。
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