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5巡目
◉コーヒーの研究
私は竹田梓。夫と娘の3人で暮らしてる普通の主婦です。近頃、娘の様子がどうもおかしい。いや、おかしくはないのか?
というのも最近、娘はいつも部屋に籠って勉強している。いつもなら最低限の宿題などをやる以外は麻雀をしてるのに。それでも成績は良いのであまり文句も言えないのだが、しかしそんなに遊んでばかりでいいのかと心配にはなる。が、最近は勉強してる。
(あやしい)
最初はやっと三年生の自覚が出てきたのかと思っていたが、こんなにも変わるものだろうか。高校受験の時だって勉強らしい勉強はしなかった子なのに。なにがどうなっているのだろう。そもそも、娘はどこに進学する気なのだろう。
そう言えば、進学を希望しているかどうかも知らない。前回の進路調査では進学するとか言っていたけど、それだって真面目に考えてるわけじゃなさそうだった。単純に『進学』って言っとけば解決するんでしょ。みたいな感じで書いたのが見て取れた。
(コーヒーのいい香りがする。コーヒー飲みながら真面目に勉強してる…自分用のケトルまで買って部屋でコーヒー淹れてる…ふむ)
あやしいと思いつつも杏奈はいつも成績優秀だったので、まあ、大丈夫かと思ってた。
次の日も、その次の日も杏奈はコーヒーを飲みながら勉強していた。そしてふと気付く。
(こんなにコーヒー飲む子だったっけ)
すると杏奈の部屋に散らかっている本のタイトルが目に入ってきた。
『美味しいコーヒーの淹れ方』
『喫茶店で働くには』
(なにこれ?!もしや、最近ずっとやってる勉強はコーヒーの研究?!)
「アンは喫茶店で働くつもりなの?」梓は直接聞いてみた。
「うん。とりあえずね。だから進学はしない」
なんという事でしょう。この子程の学力がありながら進学をするつもりはないと。でも、人生は一度きりだし、こんなに真剣になって勉強する程やりたい事があるというならやらせてあげたいとも思う。
「お父さんはなんていうか分からないけど、お母さんは応援するわ。頑張って」
「うん、ありがとう。でも喫茶店をやろうって訳じゃないんだけどね」
「?」
「とにかく、私はもう決めたの。自分の道を。だから、応援だけしてね。大丈夫、勉強は一生やるわ。私はいつでも上手くやってたでしょ?」
「…そうね、アンならきっとどう進んでも上手くやるわね」
その夜。梓は竹田慎一に連絡を入れた。
『アンは進学しないんだって!でも、やりたいことやらせてあげれる親でありたいから反対は絶対しないつもり』とメールすると。
『いいんじゃないですか、心配ではありますけど、あの子ならきっと上手くやります。信じて見守りましょう』
『そうよね、私もそう思う』
こうして、竹田杏奈は進学しない旨を親に伝えて、その後は喫茶店巡りをしながら麻雀の研究とコーヒーの研究に取り組んでいくのだった。
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