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17巡目
◉新人王決定
本戦でも2人は変わらず順調に勝ち進んだ。
マナミは持ち前の攻撃力でどの距離からも攻め続けて圧倒し、ミサトは得意の守備で失点を最小限に抑えて親番のみ一気呵成に攻めて勝ち抜いた。
「2人とも上手いなあ」
《そうですね。それに牌の巡り合わせもいいですね。2人とも決勝に行くんじゃないですか》
womanの予想は的中した。
決勝卓進出者
諏訪翔太プロ5年目
河村弘プロ2年目
財前真実プロ1年目
井川美沙都プロ1年目
(未来予知まで出来るの?)
《たまたまですよ》
天下分け目となったのは接戦のまま迎えた最終戦南2局。上家のもう親番のないトータルラス目の諏訪から6巡目に先制リーチが入った局だった。
「リーチ!」
諏訪手牌
①②③12345679白白
この手、リャンメンを拒否して作ったこのイッツーをアガることが出来れば優勝条件が現実的な点差となる位置で次局を迎えられる大切な局面。諏訪はプロ入り5年目だ。今回が新人王戦へ参加出来るラストチャンス。その想いがこの手牌に込められていた。
(なんとしても。なんとしても!)そんな願いがリーチ宣言牌の6から聞こえるようだった。
ミサトは親でイーシャンテン。
三三五六七②③④⑥⑦⑦24
7巡目
ここにツモ5と引いた。
ドラは七
リーチの捨て牌は
一九中⑤26
(とりあえず打2ね)とカオリは思う。
《ですね》womanすらそうだと思った。
都合良く切りたい2が現物なのだからそれしか無さそうなものだ。
しかし…
打⑦!
ミサトの選択はなんと⑦であった。これには一体どういった効果があるのか。
《なるほど、これは凄い…それにしても並の度胸じゃないですね》
(え?なんでなんで?)
《仮にここで現物の2から捨てるとします。そうするとその打牌を見た相手はどう思うか。何も感じないはずです、普通に現物を切っただけだし。よって、他家も現物を捨てる》
(ふんふん)
《それでは困るんですよ。なぜならミサトさんの手はどちらを引いても現張りなるイーシャンテンなのでテンパイする前にアガリ牌を処理されてはいけない》
(あ、そっかあ!)
《なのでここは⑦を先に勝負する。
⑦は現物ではないので一発目に捨てたら他家は現張りを疑います。すると親とリーチの共通安全牌を選び始める。リーチだけの安全牌である⑤や6は打たれない。
そしてその後テンパイしたら打2でダマですね》
次巡。ミサトのツモは6。
…打2でダマ。
《この2を切る時は通常のリズムより0.5秒ほど間をあけて静かに切ってるのもさすがですね。三味線判定は絶対に受けない程度のほんの瞬間の違いだけでいい。そのたった0.5秒で上級者なら察することが出来ます。オリたなと。
そしてさっきまで切れないでいた現物が打たれ始めるって寸法ですね》
同巡。マナミ、打⑤。
「ロン。5800」
「!!?」マナミは声にならないほど驚いた。
《狙われたんですよ、マナミさんは。普段から守備力の高いミサトさんの麻雀を知っているから1枚現物捨てただけで(あ、この局ミサトはオリに回ったな)と思い込んでしまいました。そして打たれる⑤。全てミサトさんの計算通りですね》
先に勝負してテンパイ時にこそ現物を切ることで財前真実を手玉に取る。先に処理できたはずの牌を危険と思わせ、わざわざテンパイするまで持たせる事でアガれない手をもアガリ切る。ミサトもまた、紛れもなく天才であった。
この5800が決め手で、その後は相変わらずミサトはそのリードをガチガチに守り切った。そしてーー
終局
「今期新人王はC3リーグ所属の井川美沙都!」
「ありがとうございました!」
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