麻雀少女青春奇譚【財前姉妹】完結!

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12巡目 ◉爆発物処理班  私は小林賢(こばやしけん)。師団のB2リーグプロだ。今回は立会人としてこの場にいる。  私には気になる選手がいる。産休や育休などもあり、実力があるにもかかわらず未だに最下位リーグをウロウロしている同期、氷海(ひょうかい)メグミだ。おっと、今は成田(なりた)だったな。  あの女は強い。あいつがいるせいで私は新人王を予選通過出来なかったと言っても過言ではないだろう。なのに、まだ最下位リーグにいるのか…ふざけた女だ。  今期こそは昇級してもらわないと負けた私がバカみたいじゃないか。幸い成田は二節を終えて上位にランクインしている。昇級圏ではないもののボーダーラインはすぐそこだ。 (頑張れよ、成田)  すると、祈り届いてか成田メグミには超弩級の手が入る。 メグミ配牌 ①⑧111999東東北北白 東1局北家ドラ9 (おおお!!いきなりの勝負手!)見ている小林の方が興奮した。しかし、1人の所ばかり見てられないので(絶対にアガれよ)と祈るだけ祈って会場全体を見回りに歩き出した。 「ロン。1000」 三四伍②③⑤⑤(678)(白白白) ①ロン 「はい」 (若い声だ…財前香織選手かな。ダメだったか。声からして放銃したのが成田だな)  小林は他の所を見回っていたが、声を聞いてそう思った。 (財前選手、ツイてたな。成田があんな爆弾持ってるとは知らず、すり抜けて1000(のみ)か…運がいい)  しかし、次局 メグミ配牌 二三四四四②③④④④⑤35 東2局西家ドラ四  またしてもダイナマイト配牌。 (なんつー豪運。これは決まったか)小林はまた成田を見てた。しかし小林が少し目を離した時。 「ポン」 「ロン。1000」 ⑤⑤⑥⑦333456(⑥⑥⑥) ⑤ロン 「…はい」  またしてもカオリが1000で蹴っていた。パッと見ただけではそうとしか見えなかった。 (また財前香織か…知らぬが仏とはこの事だな)と小林は思ったが。なにやら青ざめている成田を見てアガリ形を見返してみた。 ⑥をポンして⑤⑤⑥⑦?  つまり、カオリは⑤⑤⑥⑥⑥⑦という余裕で自力テンパイ可能な柔軟形から⑥をポンして⑤が使いづらい牌であることを知らせ、引き出したのだ。無理なく満貫が目指せるイーシャンテンであったにも関わらず!それは要するに気付いているということだ。成田の抱えたダイナマイトに。 「!?」  よく見たらカオリの額は光り、首筋には一筋の汗がタラリと垂れていた。 (極度の緊張をずっとしなければああはならない…勘違いしてた…財前選手は知っていた!致死量の火薬を詰めたダイナマイトがそこにあることを。多分、前局の時も…知った上で爆発物処理班を担当したんだ…なんて強い心を持つ新人だろう) 「フーーーーー…」  見ている立会人にも届く緊張がそこにあった。それの100倍は恐怖しながら、それでもカオリは捌きに行ったのだ。そう思うだけで小林は目頭が熱くなる思いだった。 (財前選手…!頑張れ!成田も…頑張れ!)  たった2000点の移動。しかし、そこに熱い戦いが繰り広げられていた。小林立会人は気付けば仕事を放り出してずっと後ろに張り付いていたという。
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