麻雀少女青春奇譚【財前姉妹】完結!

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15巡目 ◉ヤシロの誘い  カオリたちがリーグ戦でぶつかり合っている頃、佐藤スグルは富士2号店社員寮の布団の中でプロ麻雀師団リーグ戦速報を見ていた。 (今日の対局は成田さん対カオリちゃんか。どっちを応援したもんかな…。2人とも頑張れ!)  まだ最下位リーグのカオリたちの情報は映像化などされず文章で結果の速報があがるだけだ。それでもいいからスグルはカオリたちのことを知りたかった。あの、自分の部屋で一緒に、毎日毎日麻雀をした女子高生たち。あの子たちが今プロリーグに参戦していると思うと胸が熱くなる。 (思えばカオリちゃんは特におれが一番教えた子だったな。それはつまり、おれの麻雀をプロの舞台へ持って行ってくれたんだ…やっぱりカオリちゃんを応援しよう) コンコン!  部屋をノックする奴はひとりしかいない。そういう常識あるルームメイトは椎名(しいな)だけだ。 「はい」 「スグルさーん。今夜休みっすよね。今から一緒にメシ行きません?」  椎名は人手不足の時のみのアルバイトだが空き部屋の多い寮なのでマネージャーに頼み込んで低価格で使わせてもらっている。店としても家賃を払う者が1人でも多い方がいいので社員ではなくても使用可能としていた。ただ、社員の方が寮費は安くなるが。 「じゃあ寿司でも行くか」 「え、おれラーメン食いたかった」 「なら間を取ってステーキだな」 「賛成!」  どこをどう間を取ったのか分からないが2人はステーキを食べに行くことにした。徒歩で行ける範囲に全国展開しているステーキ店『びっくりステーキ日暮里(にっぽり)店』がある。2人はそこの常連だった。 「びっくりステーキ定食300gガーリックバターソースのドリンクバーセットを2つ」 「かしこまりました。ご注文繰り返します。びっくりステーキ定食300g。ソースはガーリックバターのドリンクバーセットがお2つですね」 「はい」 「ありがとうございます。メニューはお下げしてよろしいでしょうか」 「あ、1つ置いておいて下さい」 「かしこまりました」  店内はあまり混んでなかった。もう昼時も過ぎてピーク時間ではなかったからお店の人も少し楽そうにしている。休憩中のスタッフが奥に見えた。ケータイで麻雀をしてる。あれは多分『雀ソウル』だろう。近頃はネット麻雀といえば雀ソウル一択という時代に突入していた。  ステーキを注文して待っている間に速報をまた開く。カオリちゃんはどうなっただろう。 「何見てんすか?」 「プロリーグ速報」 「あー、今日リーグ戦ですもんね。だれか応援してるんですか?」 「シーナには言ってなかったか。財前姉妹と36期新人王の井川ミサトはおれの実家の部屋で麻雀勉強したんだぜ」 「えええ?!なんすかそれ!」 「妹はUUC杯優勝してるし」 「す、スグルさんて何者なんすか…?」 「いや、おれはただの麻雀好きなメンバーだ。それだけなんだけどな、まわりの奴らがすごいんだよ。新人王準優勝の成田メグミさんも前いた雀荘で一緒だったし」 「へぇー」 「お待たせしました、びっくりステーキ定食300gガーリックバターソースです。鉄板お熱いのでお気を付け下さい」  ステーキを両手に持ってきたスタッフはとても細くて綺麗な顔をした30代くらいの女性だった。その腕は細いが筋肉がしっかりついていて仕事をする女性の美しさがその腕から感じられた。何年も毎日鉄板を運んでいるその様子がわかる腕。この店はスタッフに名札がないから名前は知らないが2人はその人のファンだった。 「今日も彼女きれいっすね」 「魅力的だよなあ」 「彼女と言えばおれ、歳上美女にこの前呼び出されたんすよ」 “どうしても会いたいの、明後日の昼に『えにし』で待ってるから♪” 「って言うメッセージがきたら行くに決まってるじゃないすか。美女からの呼び出しですよ。ちなみに『えにし』ってのは彼女の実家でもある喫茶店の名前です」 「すげーな、良かったじゃんか」 「でしょう?でも行ってみたらあと2人いて麻雀のメンツで呼ばれただけだったんすよ!」 「ウケるなそれ。完全にからかわれてるじゃん」 「そうなんす。で、次週また連絡きて… “どうしても逢いたいの、明日の昼までに『えにし』に来てね♪” って言う、メッセージ。これ先週もあったなと思いながら行くわけですよ」 「また麻雀か」 「そしたら今度はデートの誘いだったんす!もう、こんな面倒な女ですけど、おれ彼女が大好きで。なのでいまおれは彼女がいます。そういう報告でした」 「ならおまえ寮出てけよ」 「お金貯めたいんでもう少し居ます。きっとヤシロさんも待ってくれます」 「ヤシロさん?」 「彼女の名前っす。ステキな名前でしょ?」  後にヤシロは富士2号店をたまに手伝ってくれる女子スタッフになるのだがその話はまたのちほど。
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