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2巡目
◉二度受け残し
その日はヤチヨとヒロコとナツミが麻雀部に来ていた。ユウもいるので丁度1卓丸である。
さて、今日も麻雀しましょうかと準備をしているとユウがひとつ面白い提案をしてきた。
「今日は手牌を全員オープンしたままやって一打一打その理由を説明していきましょう。もちろん他人の手は見えてない体でね。みんながどんな考えを持っているのか知ることでお互いに研究になるでしょう」
なるほど、オープン麻雀とは面白い。と皆それに賛成した。
とは言え、全員が既にハイレベルな麻雀を打てるので驚くほどの発見はそう簡単には無かった。麻雀は新しい戦術を発見することが大変であり、それを見つけなければ次のステージへと上がることは出来ないのだ。
するとそんな中、麻雀部いちの軍師である三尾谷ヒロコのある選択が異彩を放っていた。
ヒロコ手牌
六七③④⑥⑦224赤56(中中中)ドラ4
中赤ドラの3900イーシャンテンだ。リャンメンターツをひとつ外す選択の時。基本で考えればピンズの上か下のどちらかを外す場面。⑤が二度受けになってるからその方が広い。しかしヒロコの選択は違っていた。
打六
「私はこの手なら二度受けをあえて残します」
「なんで?」
「じゃあ聞くけど、ピンズの上を払うなり下を払うなりして⑥⑦あるいは④③と捨て牌に並んだ時、そのリャンメンターツ払いは二度受け拒否の可能性が本線だなんてことが読めない人、1人でもここにいるわけ?」
「ウッ、確かに」
「さらに、その二度受け以外にもあと1つ、払ったリャンメンと同等かそれ以上の価値あるターツを残しているであろうことも想像に難くないわよね」
「容易にイメージ出来るわ」
「つまり、ここを落としてしまうとピンズ待ちになってしまった時にド本命が浮き彫りになった捨て牌となってしまうわけ」
「当然⑤のスジは上家から鳴かせてももらえないでしょうから待ちにもなりやすいでしょうしね」
「それと比較してマンズを落として行った場合には待ちを当てるのは困難よね」
「なるほど」
たしかに六七を捨てても②⑤⑧が当たりという読みへは到達しない。この差に注目するのは新しい着眼点だ。
その後
ツモ⑥
打七
同巡2出る
これをポンして打⑦
「ね、これなら②-⑤待ちを読めないでしょ」
「オープンしてるから知ってるけどね」
「もう、つまんないこと言わないの!」
古からあるセオリーほど疑う。全員がよしと言う戦術にもデメリットは必ずありそのデメリットを補う反対の戦術もまた必ずある。それをいまこのシーンでどちらが有効か見抜く目を持つことが常勝雀士になるための必須能力なのである。それを麻雀部の少女たちはよく分かっていた。
「よし。今日のヒロコの二度受け残しは面白いからカオリたちにも教えてあげよう」そう言ってユウはカオリにメッセージを送ることにした。
後にカオリが出す戦術論にこの時の牌姿は載せられることになる。今カオリたちは部員全員で考えたアイディアをいつか本にしようと記録して溜め込んでいた。それは利益目的ではない、ただ私たちの研究を発表して形にしたい。それだけが願いなのである。
それぞれが大きな夢、小さな夢を抱いて皆が真剣に麻雀を楽しんでいた。
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