麻雀少女青春奇譚【財前姉妹】完結!

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3巡目 ◉ライオン  リーグ戦第3節のその日。35期新人王の中野はどこか油断していた。女が2人か、ラッキーだな。と。 「よろしくお願いします」そう挨拶はしたが、多分余裕だな。今日はポイント叩くぞと慢心していた。…だが、それは傲りであると対局が始まってからじわじわと感じることになる。 (この女たち…なんてキレイな所作で牌を扱うんだ…。まるでプロの職人。いや、プロなんだけどさ)  中野は嫌な予感がした。 「リーチ」 (早い!)  それを受けてカオリの切り番。 ヒュ!スパッ。 (躊躇ないツモ切り!危険牌だぞ!) 「ロン。12000」 「はい」 (12000を放銃したのに顔色ひとつ変えずに「はい」だって?そりゃそういうもんなんだけどさ…風格すら感じる点棒授受の動作だな。やばいやばいやばい。考えを改めないとやばい。この2人の在り方。まるで俺が憧れたプロ選手像そのものじゃないかーー)   「リーチ」 (今度は財前からかよ!復活が早すぎる) ヒュ!スパッ。 (だからー!なんでそんな思い切りがいいんだ)  メグミの勝負牌は通った。考える間もなく中野のツモ番となる。 (う、安全牌が無え) 「………」 (情け無い…危険牌でも自分の切り番で止まることないこの2人。それと比べていきなり長考してる俺。なんでこの2人を弱いと決め付けてしまったんだ。バカだった。この勝負、負けてしまうかもしれない)  中野には少し猫背なカオリの姿勢もそれすら獲物を狙うライオンに見えてきた。猫なんて可愛いもんじゃない。  恐る恐る切り出した牌は対子の白。安全牌が無いなりに1番通りそうな。しかし、自分にも1番必要だった牌を捨てた。すると。 「ロン」 カオリ手牌 一一二二三三45666白白 (ロン)ドラ4 (ガハッ!リーチ一発白イーペードラ1!?裏ドラ乗るな!降りて選んだ白なんだ。せめて、裏ドラは乗らないで…!それだけはやめてくれっ!)  カオリの手が裏ドラ表示牌へと伸びる。裏ドラが1枚乗るかどうかで4000点も違うのだからここはお祈りするしかない。乗らないで!と。 しかし 5  中野の祈り虚しく、裏ドラ表示のそこにあった牌は5だった。つまり裏ドラ3枚。 「16000」 (負けた)  中野はそう思った。そもそも無根拠に下に見てたこと自体大きな間違いだったのだ。女だからなんだというのか。むしろ女だてらに男女混合の新人王戦で準優勝を二回している成田メグミを甘く見たことからしてどうかしてた。 (もう、今日は負けるじゃなくて、既に負けたんだ。決断力、所作、自信、勇気、どれを取ってもこの2人に俺が勝ってるものがないじゃないか。今日は胸を借りよう、ここで自分の方がそれでも強いんだなんて思い込みをする程バカではないからな)  35期新人王の中野はこの日、カオリ達に負けたことで人間として一回り大きく成長したのであった。  
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