麻雀少女青春奇譚【財前姉妹】完結!

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17巡目 ◉四天王  福島弥生(ふくしまやよい)はドッジボールでは最後まで残るタイプだった。  ぶつかりたくない。痛いのは嫌だ。  そんな事を思っていたら最後に残る、そんな子だ。  麻雀も同じで、最低限だけ、効率的な場面だけ前の方に出ていき、あとは引っ込んでいる。それでいい。それが勝てる。そう信じていた。しかし。 「ツモ!」 「ロン」 「ロン」 「ツモ」 「ツモ!」 (な、なんなのこの子達…もう少し引っ込んでるってことはできないわけ?逃げることなんて考えてない…何人先制されようと受けながら前進してくるじゃない。まるでカンフー。『換歩(かんぽ)の踏み込み』だわ。だめ、受け切れないっ!私の守備力じゃもたない…なんて女たちなのよ!)  要所要所でアガる麻雀はミサトも得意としたがミサトの打撃は打点が高いからそれも可能。しかし福島は高打点打法ではないのでこうも受けていては持ち点が足りなくなるのだ。 (ダメだっ…私も手を出していかないと) 「フゥ、フゥ」 (やだな、いつのまにか呼吸が荒くなってる…この子たちと打ってるとやたら疲れるな)  普段やらないスタイルを強要されたことで疲労が溜まる福島。しかし、やらなければジワジワと削られて消耗するだけ。肩で息をしながらも勝つ可能性に賭けて前に出る。 「ロン」 (なんなの!もうー!) 「12000」 プツン  この時、福島弥生の精神力は力尽きた。自分らしくないスタイルを強要された挙げ句の跳満放銃(いちまんにせん)には精神を繋ぎ止める神経系を分断させる力がある。 (ダメだ。もうだめ。今日は凄い麻雀を見せてもらえたことを良しとして、あとはやり過ごすしかない。勝とうなんて、まだ早かったんだ。まるで、経験値の足りない状態で挑むボス戦。逃げる事も出来ない、死を待つゲーム。知らなかったな、混合リーグでもこの子達とは当たらなかったから全然知らなかった。…強い。強すぎるよ。麻雀ってここまで実力に差がつくことがあるのか。今までずっとなんだかんだで勝ってきた側だったから気付かなかった。これが…敗北…!)  明らかな実力不足で負けるという、そちら側の立場に初めて立たされた福島弥生は大きなショックを受けた。しかし同時にこの日、雀士として一回り成長したという。  結局、その日はそのまま財前姉妹の完勝。ミサトも少しだけ勝ち、福島は負債を1人で引き受けた。  そしてここに初めて、後に『天才女流5期四天王』と呼ばれる事になる『財前姉妹』『護りのミサト』『不動のヤヨイ』が揃ったのであるが、その事はまだ誰も知らない。
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