麻雀少女青春奇譚【財前姉妹】完結!

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2巡目 ◉ミサトのガード  その日ミサトはバイト前の午前中だけ『ひよこ』で遊んでいた。  ミサトの麻雀は目前のローリスクを受け入れて予測可能な後のハイリスクを回避するものだった。  いまは安全策を使う時ではない。という事をよく使い分ける、その嗅覚が鋭いのである。 ミサト手牌 二二三三三四七八九⑦⑧⑨89  親が仕掛けている8巡目にこの手になった。ドラは9だ。親はテンパイしているかもしれず危険度で言えば二切りだ。しかし… 「リーチ」 打四  これがミサトの選択する守備(ガード)である。  その直後追いかけリーチも入りリーチ合戦+親の仕掛けとなる。が。 ツモ三 「カン」  ミサトがリンシャン牌に手を伸ばす。 「ツモ」 「…あら、スジの一が出ないと思ったらこんなにここにあったのね」 ドラ9 新ドラ二 裏ドラ二 新裏二 「リーヅモ三色リンシャンドラ7…三倍満!6000.12000の4枚です」 「ぐわ!」 「また新人王の勝ちかよー!」 「プロはやっぱり強えわ」 「フフ、ついてただけですよ」  そんなことはない。この手、親のプレッシャーに押されてテンパイ時点で二を外す打ち手もいたはずだ。安手なら役牌赤1くらい。本手ならトイトイ絡みという読みになるので四に比べて二はかなり切りやすい。しかし、それをせずに四切りとしたのは後の三引きという危機回避策。事実、その三は追いかけリーチの当たり牌であった。たった一つの選択の違いで放銃になる運命だった局に勇敢な三倍満をアガる。それがプロで、新人王で、ミサトということだった。  この四切りにはドラ周辺のペンチャン待ちという長引く予感がする待ちであること、その間に追いかけられる可能性があること、そこに対して三が危険であることなどの情報も加味してあり単純な三色に見えるが様々な計算が加わった上で運も良かったのである。  それを気取らずに「ついてただけ」と言うミサトは誰から見ても格好良くて、まだ18の小娘でありながらプロ雀士としての風格すら漂い始めていた。 (はー…ミサトはほんとカッコいいわねえ、私とは大違い…) 《そうですね、でもカオリにはまだ無理ですよ。まずミサトは見た目がカッコいいですし。カオリはまだどっから見ても学生じゃないですか》 (同い年なんだけど) 《カオリにはカオリの魅力がありますし、憧れるのはいいですけど自分と比較することはないんですよ》 (そうだけどぉ)  午前中はまだ暇なのでバイト中のカオリは掃除をしながらプロ雀士井川ミサトの麻雀する姿に見惚れているのであった。
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