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第十二局
9巡目
◉おきなさい!
決勝1回戦
座順
東家 佐藤優
南家 左田純子
西家 財前真実
北家 河野勇一郎
立会人 富士山賢太郎
決勝戦は半荘4回勝負。1回戦東1局の西家マナミの配牌は凄まじかった。
三三四四四伍伍六七七八①2 ドラ二
チンイツチャンス!しかもかなり簡単に出来そうな並びである。
第一ツモを持ってくる。
ツモ4
打①
次巡
⑨ツモ切り
次次巡
ツモ3
(あれ?もうテンパイした。七切って三四五待ちリーチ?三切って六九?打八は手替わり待ちでダマかな。カンチャンだし。…いやいや、まだ3巡目。この素材からは高打点が欲しいから…)
そう思ってマナミが手をつけた牌は4だった。しかし、牌を掴んだその瞬間!
ビビビビビ!!!
「痛った!」
マナミの指先から脳にかけてかつてないほどの電流が流れた。最近はもう全然出てなかったあのミスしようとするとピリッときて間違いに気付かせてくれる電流だ。その電圧はマナミに(何寝ぼけているんですか!おきなさい!)と言っているようであった。
マナミは4を戻す。
(ええ?序盤だよ?チンイツそんなだめ?)と思って見直してみるとマナミは見落としに気がついた。
「リーチ」
打八
そう、これは打八のリーチにする手だ。八切りはカンチャンだけだと寝不足から頭が起きてなくてそう思い込んでいたが、よく見たらこれは二伍六の9枚待ち高打点確定テンパイだ。危なかった!この手からわざわざチンイツに行く理由など東1局にあるわけがない。
「ツモ!」
(一発!)
三三四四四伍伍六七七234 二ツモ
「3000.6000」
まずはマナミの跳満ツモ。ユウは親っ被りの6000失点からスタートした。
次局は左田が5巡目に逡巡しつつもリーチ。ドラは九だ。ペンチャン七待ちのドラ1。もちろん、こんなリーチはこの手合いとでの勝負ではリスキーなことは分かっている。だが、ドラターツを使い切っていてしかも親だ。リスクは承知でこれをリーチする価値がある。
(降りてしまえ!頼むから、親リーチのプレッシャーに屈して…!)そう祈りながらのリーチだ。しかし2巡後そこにユウが追いついた。
ユウ手牌
四伍六七1234567899
左田は3巡目に9を捨てている。安全に9を捨ててイッツー確定として良さそうだ。しかし、ユウの手は9を掴まずに通過して左側へと伸びていく。
(まさか!放銃してしまうの?)ギャラリーはみんなそう思った。9切りしないなら七だからだ。だが!
「リーチ」
打四
そこには天才がいた。
一四の筋は危険であるのにもかかわらずの打四だった。
一発目に左田が引かされたのは…9。
「ロン」
バサッ!
「12000」
裏が8で跳満。左田痛恨の一撃!リーチ宣言牌を見つめて左田は思う。(くそっ!私のミスだ)と。
「さすがユウね」
「ねえミサト。ユウはなんで四を切れたの?」
「枚数1枚差で369のほうが強いし何より9ツモで跳満まで可能性あるし」
「それは分かるんだけど七切りじゃないの?」
「リーチに逡巡してたからね」
「そっか!一四待ちのリーチなら親で先制で躊躇うことない!ペン七だから迷いがあったって読めるんだ」
「そういう可能性の方が高い、と言う程度のものだけどね。でも麻雀の読みなんてそんなものよ。重要なのはその自分の読みを信じて立ち向かう勇気があるかどうか」
「勇気…」
チャンピオンとは勇者にのみ与えられる称号だと言うことをユウは本能で分かっていた。ユウは若くてもタイトルホルダーである。今回の決勝戦に残ったのもマグレでもなんでもない。若きチャンピオン佐藤優が左田の一瞬の迷いから待ちを読み切って正確にカウンターをぶち込んだ。それは明らかに腕の差であり、左田はこの一撃で精神的にダウンした。そしてこの半荘は立ち上がれないままゲームが終わってしまったのだった。
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