麻雀少女青春奇譚【財前姉妹】完結!

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3巡目 ◉そこには無いということを読む  今日は大学2年生になってから初めての出勤だ。 「カオリちゃーん。進級おめでとう」 「麻雀もいいけど、学業も頑張ってねー」 「ありがとうございます、ありがとうございます」 《相変わらず大人気ですねカオリは》 (ありがたいことだけど、なんでなのかはホントわかんないわ。マナミの方が美人だと思うんだけどな) 《ファンが多いのはいいことです。素直に受け入れておけばいいんですよ》 (まあ、そうね) 「カオリさん。さっそくで悪いけど3卓の本走を遅番と交代お願いできるかな。まだ東2の親2回ある25000(ゲンテン)持ちだから」 「はーい!じゃあ、挨拶して入ります」  そう言うとカオリはピシッと背筋を伸ばしてホール全体へ「いらっしゃいませ!おはようございます」と一礼し、店長にも「おはようございます!」と挨拶すると3卓へと小走りで近寄った。 「おはようございます。本走交代します。お疲れ様でした」と遅番スタッフに挨拶して交代する。 「本走入ります。よろしくお願いします」と今度は同卓者へと挨拶し一礼する。 「よろしくお願いします」 「お願いします」 「よろしく」  座って早々にカオリはテンパイする。 東2局 25000持ち南家 6巡目カオリの手牌 一三三⑥⑦⑧⑧234678 三ツモ ドラ西 (タンヤオのみの亜リャンメンか~…どうしよ。リーチでいいかなあ?萬子を伸ばす手もあるけど今回は対面が四はポンしてるし、多分対面はホンイツだから萬子待ちは全然いい待ちじゃないわ) 《もう1巡だけ様子見してから決めましょう》 (タイミングを見計らうってこと?それってただの勘じゃないの?) 《そういうのとは違います。前巡の下家の切りが気になるんで、とりあえず下家が次に何を切るかだけ見てからにしましょう》 (下家〜?)  下家の前巡(ごじゅんめ)の切りは②だった。それがなんだと言うのだろうか。  カオリはとりあえず言われた通りに打一のダマにしてみる。 下家打② 《OK。ここでリーチしましょう!》 (なんでか分かんないから後で教えてよね) 「リーチ」  womanに言われるがままにツモ切りリーチをするカオリ。 …すると 「ツモ!」 三三三⑥⑦⑧⑧234678 ⑤ツモ 《ほうらね。すぐ引けました》 「2000.4000(リーチイッパツツモタンヤオ)」 「うわー、勘いいなー!1巡回して一発ツモかよー」 「しかもその1翻差で満貫だし!ほんとカオリちゃんて腕だけじゃなくて運もいいよな!」 「あははは、ラッキーでした」 (ほんとそう思う。でも、違うんでしょ?) 《もちろん、ここに至るまでには理論がありますよ。運の良さは否定しませんが》 (ヒントは下家の②対子落としにあるのよね) 《その通り》 (まあいいや、今忙しいし帰ったら教えて?) 《わかりました》 ーーーーー ーーーー その日の夕方 「ただいまー」 (お母さんまだ帰ってないのか…) 「ねー、woman。今日のアレ。教えて〜」  誰も家に居ないのを確認するとカオリはwomanに声で語りかけることにした。最近ずっと脳内会話しかしてなかったから、たまには声を出して話したかったのだ。やっぱり会話は普通に声を出してする方が楽なのだ。 《5巡目②から何を読み取るか…ということです。5巡目というのは最序盤ではありませんが、序盤ですよね。その時に②⑤⑤⑤とあった場合どうです?そろそろこの②を捨てておきたいな。と思う頃合いではありませんか?》 「そーね。4枚使いは危険牌になってからだと手を付けにくいから誰もテンパイしてないなって思えるタイミングで捨てておきたいわ。5巡目とか丁度そんなタイミングかも」 《ですよね、でもこれが②②⑤⑤⑤だとしたらどうですか?5巡目に②を切って次巡も②というふうに対子落としに行きますか?》 「…いや、それはあまりやらないかも。6巡目なんてもうリーチされる可能性があるからこの場合は落とさず手牌で使い切る方針にした方がいいわ。だって1枚捨てた②⑤⑤⑤の時にリーチされたら切りにくくて詰むだけだもの」 《そうですね。つまり、あの巡目で②の対子落としをしたと言うことは…》 「そうか!つまり下家の手には⑤は固められていないと読めるんだ!」 《正解》 「加えて対面はホンイツだからピンズは無い」 《上家の手までは分かりませんが3人中2人が⑤を持っていないと判明したならこの待ちでリーチする理由としては充分です》 「なるほどなー、暗刻子があるかどうかを読むことは難しくても暗刻子が無いということを読むことは出来るのかー」 《ほんのちょっとの気付きですが、それに気付くことが出来る人はあれをいい待ちだと分かり、リーチする価値ありと判断できるのです》  womanのアシストのおかげもありバイト先での本走では成績No.1を出し続けるカオリなのであった。
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