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9巡目
◉好敵手
カオリは師団名人戦の一般予選会場初日の受付をやっていた。そういう仕事もプロになるとやったりやらされたりする。新人だと特に断りにくい。キチンと給料は出るので、まあいいかでカオリは今回引き受けていた。
「そう言えばユウは?」
「いまは麻雀教室で忙しいから今回は任せるって言ってました」
(ほっ、良かった。ユウまでいたらいよいよ面倒なことになる。あのユウが予選落ちするとは到底思えないし参加されたら絶対に厄介なことになるのは容易に想像がつく)
《随分と弱気じゃないですか、カオリ》
(私はいつもこんな感じよ。過去に一度でも私が強気だったことなんてあった?)
《…そう言えば無いですね》
色々な人がいたけど、今日の参加者36名の半数近くは高齢者だった。昔からあるクラシックルールというのがお年寄りには馴染みのあるルールなのかもしれない。
麻雀部の女子たちは集まって全員で気合いを入れた。
「全員予選通過するぞー!」
「おー!」
するとカオリが一言。
「気合い入れてるとこ悪いんだけどさ…今日のこの東京1区予選会場からは上位2名しか予選通過しないからね?今日の予選だけで全員通過は不可能よ」
「ええっ!?うそお!厳しすぎ!!」
「大会予選ってそんなもんだよ。プロ予選だともっと通過しやすいんだけどね。だから、アマチュアなのにタイトル戦優勝とか準優勝してるユウはホントにすごいのよ」
「へぇ〜〜」
「さ、もうすぐ時間よ。私も仕事に戻るから、みんな頑張ってね」そう言うとみんな第一試合の卓に移動した。
アンだけは目の前の卓が第一試合だったのでカオリとまだ話していた。
「カオリ先輩。私は必ず予選通過してみせますよ!」とアンは自信満々に宣言した。
「うん、そうなる気が私もしてる」
「本戦で会いましょう」
「そうね」
そう言うとカオリはスッと右手をアンに差し出して握手した。
「あなたは私の好敵手。私以外に負けたら承知しないから」
「俄然、やる気が出てきましたよ。必ず勝ち上がります!」
《あらあら、ずいぶん熱くなったものですね。カオリも変わったってことですかね》
(だって、あのアンが。1年生の頃から見てきたあの子がついに大会デビューするまでになったんだよ?優勝を狙う私には邪魔な存在にはなると思うけど。でも、頑張って欲しい。可愛い後輩だもん)
『では時間になりましたので、これより第35回師団名人戦一般予選を始めます!参加者の皆さん、始めてください』
「「「よろしくお願いします」」」
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