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14巡目
◉受けのスペシャリスト
飯田雪は競技麻雀にハマった。
東京1区での予選を落ちた飯田ユキはもう一度チャレンジしたいと思い、あれから麻雀部で猛特訓をして東京2区で再チャレンジを試みた。結果、予選決勝にまでは残るが最終戦でこちらもまた再チャレンジしていた新田忍にやられてしまう。
東京2区からの予選通過はまず新田忍となった。(東京2区は会場が狭いので一回につき通過は1人。その代わり午前の部と午後の部があり、まだチャレンジの機会はある)
けっこうツイてたのに決勝で勝ち切れなかったことに肩を落とすユキ。それを見た新田がユキに話しかけてきた。
「飯田さん…だっけ?1区の時も当たったよね。キミ、つええな。今回はオレの勝ちだったけど次当たれば分からない。午後の部もチャレンジしてみなよ。せっかく会場に来てるんだしさ」
本当言うと再々チャレンジなんてそんなことするほどお金に余裕がある暮らしはしてないから一度の再チャレンジで負けたら潔く諦めて午後はバイトに出勤しようと思っていた。だが、新田にそう言ってもらえて、思わずやる気が出る。加えて
「えー、これにて午前の部は終了ですが、午後の部にもご参加いただく方は午前の参加用紙を見せていただければ参加費は半額になります。参加用紙は捨てずに午後またいらして下さい」
(半額!)
すぐに店へと電話をかけるユキ。
「……あ、店長。…はい。そうなんですけど、午後の部が…はい。だって……半額なんです…あ、ありがとうございます。頑張ります」
「新田さん、ありがとうございます。私、午後もチャレンジしてみます!」
「頑張れ!」
新田忍に強かったと評価されたのもあり、ユキはいつになく燃えていた。他人からそんな風に褒められたのは初めてのことだったので、とにかく嬉しい。
「リーチ!」
一二三四六七八九22888 ドラ九
普段のユキならダマにしてそうなテンパイであるが、いまユキは燃えていた!
リーチ一発目に九をツモるも、さらにその2巡後
「ツモ!」
一二三四六七八九22888 赤伍ツモ
赤伍をツモる。いや、赤は抜いてないだけで関係ないのではあるが。
「2000.4000」
力強い満貫
(やったー!イッツーのカン5は好きなのよねー。なにその愚形って一瞬見えて実は最高形ってのが面白いし)
(いいアガリをするなあ)
飯田の麻雀を午後から会場係のバイトをしている福島弥生も見ていた。
(この子。もし5200ダマにしていたら九を引いた時点でシャンポンに切り替えてリーチにしてしまうかもしれない。思い切りのいいリーチをしたからこその満貫ツモ。こういうのは大きいのよね)
このアガリを皮切りにしてユキの猛攻が始まった。
ユキはあまり先手を取れなかったが、だからどうしたとばかりの反撃をする。彼女にとっては先制攻撃されることはヒントをもらうことのような感覚で。
先制リーチ?ああ、テンパイしてたんだ。教えてくれてありがとうございます。
チー?面子構成教えてくれてありがとうございます。大ヒントになりました。
といった具合だ。ほんの少しすら怯まない。むしろ、歓迎する。それが飯田ユキであった。
ユキに対して以前、マナミが「受け身になってる時に全くネガティブにならないね」と言った事があった。するとユキはこう答えた。
「どうせ戦わないといけないなら相手の情報が少しでも漏れてる方がマシじゃない?って思ってるんだけど」とユキは言う。全くもってユキの言う通りである。
「それに、この麻雀部の面子で打っている限りほとんど先手になんてなれないんだし。先手とれた時だけ攻めるなんて甘い考えで勝てるわけない」ともユキは言う。
麻雀部で先手を取られ続けていたユキは知らぬ間に受けのスペシャリストになっていた。
気がつけば午後の部は圧倒的な大差でユキの優勝。
「やったー!!」
「おめでとう!本戦も一緒に頑張ろうな!」と観戦していた新田からも祝福を受ける。
「うん!ありがとう」
東京2区からは
新田忍
飯田雪
以上2名が予選通過となった。
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