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13巡目
◉プレイスタイル
つまらない麻雀をするくらいなら負けた方がいいーー
これが富士山プロのこだわりだった。
カオリは麻雀に興味があるのでありプロ雀士にはとくに興味がないので富士山ほどの人気プロですらよく知らなかった。
《3回戦はシードのフジヤマと対決ですか》
(人気投票で3回戦シードもらった人よね。どんな麻雀するんだろ)
《見た目は、正直言って男前っていうわけでもないですし。実力派の選手ってことになりそうですよね》
(男性部門人気2位の豊田貴志さんも見た目は十人並だけど良い麻雀を打つからね。現代麻雀の人気投票はどうやら俄ファンではなく本気の麻雀好きが投票しているみたいね)
本戦3回戦の対局相手は
富士山賢太郎プロ
橘浩樹プロ
福島弥生プロ
この3名だ。
橘浩樹は運が良かった。なるべく多くの人と当たるように作られている予選の仕組みと違って本戦は3位4位が切られて生き延びた2名はまた同卓となる。1回戦目はカオリの戦略的見逃しで生き延びた橘は2回戦はカオリの独壇場な中でずっとベタ降りして2着になって3回戦まで来ていた。
麻雀は見逃されたヤツはツクと言うが、それが本当かどうかはさておき見逃しされたことにより2着に選ばれた橘は明らかについている。
そして、試合開始すぐに大事件が起きた。
東1局1巡目
「…リーチ」
打5
いきなりのダブリーから始まった。リーチしたのはついてる男。橘浩樹だ。
…5巡後
「ツモ」
一一三三三222白白白中中 中
「8000.16000」
(はあ???ダブリー四暗刻????なにそれ!)
《うわ!びっくりしましたね》
親番だった富士山賢太郎は開始2分で16000失点。こんな理不尽なことがあっていいのだろうか。しかし、それも起こり得るのが麻雀というものである。
(こんなのアリかよ)と内心思った富士山だったが、そこで腐らず、諦めずにしっかりと自分の麻雀をした。その結果、南1局12巡目にこんな手が入る。
一一二三四伍六七八九九34 九ツモ
一を切ってメンピン一通12000。それはわかる。が。
打4
ノータイムでのテンパイ取らず。2位までが通過のルールであるにもかかわらずだ。
しかし、これが富士山賢太郎という男が人気投票1位な理由でもあった。
結局、ここから先はマンズを持って来れず富士山はノーテンで最後の親を失ってしまう。だが、富士山の心は
(これでいい。あの手から九蓮宝燈を目指さないのは富士山賢太郎ではない)と、後悔など全くしていなかった。それが『らしい』打ち方だと。おれはこうやって負けてきたし、勝ってきた。と。富士山賢太郎は自分のプレイスタイルを貫いたのだった。
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