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「騎士様、大公様のお屋敷までお願いします」
「おや、今日はお早いのですね」
「はい。ちょっと大公様に相談したいことができましたので」
わずかに驚いたような表情を見せたミラドールさんにそう返すと、彼は何も言わずに頷き僕の手を取る。
「なるほど。でしたら、少々速度を出します。お手を離されませんようお気を付けください」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ミラドールさんの提案と注意に感謝しながら、彼の手を握り返して身構える。
それを確認したらしいミラドールさんは僕を見て再度頷き、大きく尾ヒレを振るった。
体が引っ張られ、一瞬だけ呼吸が詰まる。
それもすぐに慣れ、周囲の景色はものすごいスピードで視界の端へと流れていった。
あっという間に大公邸が見え、ミラドールさんは徐々に減速する。
そして門の前で止まり、そっと僕から手を離した。
「着きましたよ、マッキャロル殿」
「あ、ありがとうございます。本当に速かったですね……」
「ええ、鍛えておりますので」
僕の言葉にミラドールさんは自信に満ちた顔で言い、それから表情を引き締めピシリと姿勢を正す。
「それでは、自分はこれで失礼いたします」
「ありがとうございました、騎士様。また明日もよろしくお願いします」
そう別れの挨拶を交わし、ミラドールさんに見送られながら門をくぐった。
「すみません、大公様にお話ししたいことがあるのですが、お時間はありますか?」
「少々お待ちください。確認してまいります」
迎えに来てくれた使用人と前庭を進みながらそう聞くと、使用人はそう言って僕を客間へと通す。
(やっぱり忙しいんだろうな……)
そんなことを思いながらしばらく待っていると、不意にドアがノックされた。
「俺だ」
短い声が言う。
「あ、ど、どうぞ……?」
僕が答えていいのか分からないけれど、とりあえずそう返すと扉が開かれ、ネルソンさんが姿を見せた。
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