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(……不老、不死……?)
話が全く分からないのだけど、どういうことかと聞くだけの体力もなかった。
「今、お前には一通りの致命傷を負わせた。だがお前は死ぬどころか意識も失わない」
伯父上はそう言い、大きめの鏡を僕の体へ向ける。
「こうすればお前にも見えるだろう。お前の体がどうなったのか、不老不死とはどういうことかが、ハッキリとな」
そうして傾けられた鏡に映ったのは――ずるずると蠢く、血と肉の色をした塊だった。
(……なに、これ……!?)
驚くべきことに、鏡の中の動きに合った感覚が確かにあるのだ。
「これは間違いなくお前の体だよ。もう少し時間を置けば完全に元の形へ戻るだろう」
それまではここでゆっくりしていろ、と言い残し、伯父上は他の三人を連れて部屋から出て行った。
ゆっくりも何も、こんな体ではまともに動けない。
それどころか、動き回ろうなんて考えも浮かばない。
鏡の中でのたうつ赤黒い塊を思い出し、吐き気が込み上げてくる。
(あれが、僕の体……?)
不老不死とは――死なない体とは、あんなにもおぞましいものなのか。
死ねない体とは、こんなにも恐ろしいものなのか。
視界がにじみ、目尻から熱が伝う。それもすぐに冷え、新たな熱がこめかみを滑り落ちた。
涙が止まらない。
「う、あ……ああ……っ!!」
動けないまま、僕は掠れた声をあげて泣いた。
実親から離される時は泣くのを我慢した。
伯父夫婦から酷い扱いを受けても泣くのを我慢した。
牢に入れられた時は泣かなかった。
そういえば久しく泣いていなかった、と変に冷静な自分の声がした。
それなら、今だけは好きに泣かせてもらおう。
どうせどこにも届かないし、誰にも響かないのだから。
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