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どれくらい泣いていただろうか。
久しぶりに思うがままに泣いて、少しスッキリした気がする。
それでも化け物になってしまった悲しみは消えないけれど、今さらどうにもならないのだと諦めよう。
やや強引に思考を切り替え、手足に意識を向ける。
ようやく手足の感覚が戻ってきたところで僕は涙を拭い、そっと上体を起こした。
あれだけ出血しぐちゃぐちゃになっていた体はすっかり元通りになり、僕の体には傷跡一つなかった。
血飛沫の一つもない。
恐る恐る体を回し、乗せられていた台から降りる。
しっかり感覚の戻った足は、折れることなく僕の体を支えてくれた。
ぐるりと部屋を見回す。今いる部屋は最後に見た凶器だらけの部屋のようだ。
となると、僕が寝かされていたのは部屋の中央にあったベルト付きの椅子だろう。見ればベルトは無惨にも焼け焦げ、引きちぎれていた。
(……一通りの致命傷、って言ってたっけ)
一体何をされていたのかと背筋が冷える。
激痛で何も分からなかったけれど、分からないほうがよかったのだろうと自分を納得させた。
椅子から離れ、壁に沿って周りを探る。
何を探しているわけでもないけど、動いていないと落ち着かない。
といっても、壁には悪趣味な武器やら凶器やらがあるだけだ。
それ以外には何もない。
入ってきた扉も、当然のように鍵がかかっていた。
(……まあ、そりゃそうだよね)
一通り見終わったところで中央の椅子へと戻り、腰を下ろす。
「おい! 元に戻ったならさっさと来い!」
――よりも前に扉が開き、そんな怒声が飛び込んできた。
どこか焦った様子の伯父上は僕へ何かの布を投げつけ、急かすように靴を鳴らす。
「さっさとそれを着ろ、ノロマが!」
投げられた布は衣服だった。伯爵家へ来てから初めて触る、質の良い貴族の服だ。
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