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急にどうしたのかと考えながらも慌てて袖を通す。
そして最後のボタンを留めたところで腕を引っ張られ、強引に部屋から出された。
並ぶ鉄格子を横目に、伯父上の後を追って走る。
そのまま階段を上がり、伯父上が扉を開けた瞬間――伯父上の動きが止まった。
「ち、がう……悪いのは……ヴァーミリオン……」
掠れた声で言う伯父上の背中からは刃が突き出し、白のジャケットはじわりじわりと赤く染まっていく。
刃が引き抜かれ、脱力した伯父上の体は僕を巻き込んで転がり落ちた。
伯父上はもう呼吸をしていなかった。
(一体何が……!?)
のしかかる死体をどけ、階段を見上げる。逆光でよく見えないけれど、一人分の人影が降りてくるのが分かった。
「……こんなところに隠し部屋があったのか」
人影はそんなことをつぶやきながらゆっくりと階段を降りてくる。
やがて現れたのは、平民らしい服装をした男だった。
その手には血に濡れた剣が握られている。きっとあれが伯父上を刺したものだろう。
「お前も伯爵家の人間か」
問いかけられ、反射的に頷くと鈍色が煌めいた。
視界が周り、転がる。遅れて首に熱を感じ、喉が塞がるような感覚に襲われた。
首を切り落とされたのだ。
「……人間のクズどもめ」
男はそう吐き捨てるように言い、倒れている伯父上の首も切り落とす。
そして伯父上の髪を乱暴に掴み、階段を上がっていった。
しばらくして扉の開く音がし、幾人かの騒ぐ声が飛び込んでくる。
「憎っくきマッキャロルの首は、このゴードンが獲った!」
それに答えるように男の声が言い、喧騒は歓声に変わった。
十人……いや、もっと多くの声が伯父上の死を喜んでいる。
(……外の人たちも、僕みたいに――いや、僕よりも酷い扱いをされていたのかな)
ここまで死を望まれ、死を喜ばれるほどとは相当のことをされていたのだろう。
(それなら、仕方ないか……)
そう割り切り、意識を胴体へ集中させる。
しかし脱力した胴体が動く気配はない。
(……これも、しばらくすれば元に戻るかな)
それなら元に戻るまで休もう。
今日は昨日よりもずっと疲れてしまった。
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