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「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
体を起こし、差し出されたグラスを受け取る。
グラスの中で揺れる明るい緑と、それに映る自分の顔がぼんやりと眺めた。
グラスに映る僕は、ひどく疲れた顔をしている。
そのままグラスを傾け、ジュースを味わう。程よく希釈されたジュースは飲みやすい甘さが口の中に優しく広がった。
「……おいしい」
思わずそんな言葉が漏れる。
「おいしいですよね。元が薬の材料だったとは思えないです」
僕の独り言にトリシアさんがそう言って笑い、それからふと表情を変えた。
「……あの、魔法薬は全然関係ないんですけど、食用の海藻に魔力を流したらどうなるんでしょうか?」
唐突な質問に思考が止まり、返事が遅れる。
「……え? どういうことですか?」
「いや、このジュースみたいに甘くなったりしないのかな、とか……」
トリシアさんの言葉に、思わず固まってしまった。
全く思いもしなかった可能性に、目の前の曇りが晴れていくような感覚を覚える。
「……そ、それ! 試してみましょう! 新しい素材が見つかるかもしれません!」
「えっ、ええっ!?」
勢いよく飛び出た僕の声に、トリシアさんは驚いたように声をあげた。
「あの、食用の海藻って薬の材料になるんですか?」
「それはまだ分からないですけど、魔力を流したら変質する可能性はあると思います!」
試すなら海藻だけじゃなく貝も試すべきだろう。
もしかしたら魚にも何か発見があるかもしれない。
(とにかく、ネルソンさんに相談してみよう!)
そうと決まれば、善は急げだ。
「すみません、ちょっと早いですけど今日はもう終わりにしていいですか?」
「は、はい、大丈夫ですっ」
そうトリシアさんに断りを入れ、手早く片付けを済ませ調薬室を出る。
「それではトリシアさん、また明日もお願いします」
「はい、今日もお疲れさまでした」
そして彼女と別れ、護衛のミラドールさんへ声をかけた。
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