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それからの動きは早かった。
というのも、翌日には二箱ほどの食材が用意されていたからだ。
「他のものも順次用意させる」
と書かれた貝殻が入っていたけれど、一度にたくさんあっても手が追いつかないのでむしろ助かる。
石板の目録を片手に箱の中を確認すると、知っているものがいくつかあった。
いつも大公邸でごちそうになっている海藻類だ。
「わ、すごいですね……こんな高級品、市場でもなかなか見ないですよ」
箱を覗き込み、トリシアさんがぽつりと言う。
どれがそうなのかは、きっと聞かないほうがいいだろう。
「……そ、それじゃ始めていきましょうか。トリシアさんもお手伝いよろしくお願いします」
「分かりました!」
二人で手分けして魔力を流していくと、やはりいくつかの食材に反応が起きた。
毒性がないかを確認しながらそれぞれ分類し、箱の中身が減っていく。
やがて一箱目が空になったところで一度休憩を挟んだ。
「やっぱり、反応するものがありましたね!」
「でも、ジュースになりそうなものはありませんでしたね……」
「そ、それは……まだもう一箱ありますから、そちらに期待しましょうか」
やや沈んだ声のトリシアさんをそう慰め、三つの山に分けられた食材を見やる。
反応のあったものは箱の3割ほどで、それなりに多い。
「この中に有用な素材があるといいんですけど……」
「そればっかりは試験場にお願いしないと分からないですからね……」
そんな風に会話しながら、トリシアさんは毒性の出たものをちらりと見た。
「……それにしても、普通に食べてた食材に魔力を流すと毒が出るなんて知りませんでした」
「まあ、普通はそんなことしませんからね」
と言いつつ、僕は陸の食材を思い浮かべる。
「毒といえば、陸では毒のあるものが食用として流通しているんですけど、この国にもそういう食材はあるんでしょうか?」
僕のちょっとした疑問に、トリシアさんは少し悩みながら頷いた。
「毒のある食材……って言ってもいいのか分からないですけど、毒針や毒袋を安全に取り除いて、キレイに洗ってから食べるのはけっこうありますね」
……どうやら「そこまでしてでも食べたい」と思うのはどこの誰でも同じらしい。
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