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「――今のがマーヴィン様の最後のお言葉デス。これに従イ、本日よりワタクシめはヴァーミリオン様にお仕えいたしマス」
「そ、それはいいんですけど、今の声は一体どこから……!?」
「オヤ、録音機をご存じありませンカ。音そのものを記録シ、反芻することのできる機構でスヨ」
いや、さすがに録音機は知っている。ただあれは木箱を三つ積み上げたような大きさをしていたはずだ。
「ど、どこに録音機が……」
「ワタクシめに内蔵されておりマス」
こともなげにエストラさんは言い、それからペコリと一礼する。
「ヴァーミリオン様、このワタクシめに何なりとお申しつけくださいマセ」
「え、え、えーっと……」
急にそう言われても困る。
「まず、ヴァーミリオン様って呼ぶのはやめてもらえませんか。なんだか落ち着かなくて」
「かしこまりまシタ。ではどのようにお呼びすればよろしいでしょウカ」
「僕のことはヴァンと呼んでください」
「かしこまりまシタ、ヴァン様」
そういうことではないのだけど……
(……まあ、いいか)
ついさっき彼は、僕に仕えると宣言していた。
きっと、敬称を外すわけにはいかないのだろう。たぶん。
「……それで確認なんですけど、本当にこの部屋を僕が使っていいんですか?」
「マーヴィン様のお言葉の通りデス。たった今、ワタクシめを含む隠れ家の全てがヴァン様のものとなりまシタ。ヴァン様のお好きなようになさってくださいマセ」
僕の問いにエストラさんは淡々とそう答えた。
それでいいのなら、さっそくやってもらいたいことがある。
「じゃあ、この隠れ家を案内してもらえませんか」
エストラさんと話しているうちに痛みは引いてきた。
もう歩けるだろう。
「かしこまりまシタ」
エストラさんはそう言って一礼し、扉を開け言った。
「それデハ、案内をさせていただきマス」
「よろしくお願いします」
彼の後に続いて扉を抜けると、右側に伸びる通路が目に入ってきた。七つの扉がある廊下だ。
「この隠れ家には今の寝室の他に書斎、キッチン、バスルーム、実験室、保管庫の六つの部屋がありマス。近い部屋から順番に案内いたしまスネ」
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