56人が本棚に入れています
本棚に追加
エストラさんは一つ一つの部屋を、簡潔に教えてくれた。
「――それデハ、ワタクシめは食事の用意をしてまいりマス」
案内を終えた彼はそう言って保管庫へ残ったので、僕は一番興味を惹かれた書斎に入り書家をじっくりと眺める。
並んでいる本は魔術や魔法薬学に関するものばかりだ。
伯爵邸では読むことを許されなかった本が目の前にある。
これら全てが僕のものだという。
(入門書はあるかな……)
とりあえず壁際の本棚の一番上から一冊取り出し、開く。
書かれているのは魔法薬学の応用についてらしい。
(これじゃない……)
本棚に戻し、次の本を取る。
中を見ては本棚に戻し、入門書を探す。
「――ヴァン様、食事の用意ができまシタ」
五つめの本棚を確認し終えたところで、エストラさんが書斎にやってきた。
開いた扉の向こうに料理の載ったカートが見える。
「え……ここまで運んできてくれたんですか?」
「ハイ。何やら集中しておられる様子でしたノデ」
「そんな……わざわざありがとうございます」
「いえイエ、お気になさラズ」
頭を下げる僕に対し、エストラさんはデスクに料理を並べながら首を横に振った。
「サア、冷めないうちに召し上がってくださいマセ」
「ありがとうございます。いただきます」
促されるまま、引いてもらった椅子に座りフォークを手に取る。
並んでいるのはパンとシチュー、そしてサラダ。どれもおいしそうだ。
(食べ切れるかな……)
そんなことを思いながら、久しぶりに食べるまともな料理を味わう。
あまりのおいしさに目頭が熱くなった。
「どうなさいまシタ?」
「……いえ、何でもないです。大丈夫です」
小首をかしげるエストラさんにそう返し、僕は黙々と料理を口へ運んだ。
最初のコメントを投稿しよう!