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「アデラールです。少々よろしいでしょうか」 「いいですよ。今開けます」  何かあったのだろうかと思いながら扉を開けると、アデラールさんの後ろに大きな箱を抱えた屈強な男性がいた。  いつだったか、薬屋から大量の箱を運び出していった運び手の一人だ。 「……大事なお話の途中でしたか?」 「今は休憩しながらみなさんのお話を聞いていたところです」  そう答えると、アデラールさんはどこかホッとしたように表情をゆるめる。 「ならちょうどよかったです」  そう言って横へずれ、運び手の持つ箱を指しながら言った。 「こちらはロビスから皆様へ差し入れです。ほんの気持ちですが、受け取ってください」 「ありがとうございます。いただきます」  とりあえず箱を空いている作業台の上に置いてもらい、アデラールさんが蓋を開ける。  中に入っていたのは見覚えのある瓶で、思わず口角が上がってしまった。  見間違えようもない。の海藻ジュースだ。  それも大衆向けの安価なものではなく、高級志向の少し高価なものである。 「ありがとうございます。このジュース、おいしいですよね」 「ええ。ロビスでも多くの職員が愛飲しています」  顔を見合わせ、互いに笑う。  アデラールさんはイタズラに成功した少女のような表情をしていた。  真面目そうに見えて意外とお茶目な人だ。 「では、私はこれで失礼いたします」 「はい。お忙しい中ありがとうございます」  きっと仕事の合間を縫って来てくれたのだろう。  そんな彼女の気遣いに感謝しながらその後ろ姿を見送り、それから瓶を持って生徒たちの元へと戻った。 「ロビス試験場のみなさんから差し入れの海藻ジュースをいただきましたので、さっそく飲みましょう」  言いながら瓶を見せた瞬間、トリシアさんは何も言わずにいつものようにグラスを人数分用意してくれた。  僕らの休憩のお供はいつだって海藻ジュースのようだ。  
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