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 退室していく三人を見送り、残った二人へ視線を向ける。  現在部屋に残っているのはシリルさんとトリシアさんと僕の三人だけで、シリルさんはふーっと息を吐くとへにゃりと笑顔を浮かべた。 「改めて……お疲れ様です、ヴァーミリオンさん、トリシアさん」 「ありがとうございます。シリルさんもお疲れさまです」 「お疲れさまです、シリルさん」  互いに労い、それからシリルさんは言う。 「室長から聞きましたが、今はトイエンマーデルトを除染する薬を研究してるそうですね」 「は、はい……」  なぜ敵国を、と責められるだろうか。  しかしそっと窺ったシリルさんの表情は普段通りで、彼はなんてことのないように言った。 「ロビスは引き続きお二人に協力しますから、ぜひ気軽に依頼してください。職員のみんなも新しい薬を楽しみにしてますので!」 「……へ?」  至って明るい声に思わず間抜けな音が出た。 「い、いいんですか? 亡国とはいえトイエンマーデルトは敵国で……」 「確かに戦争までした相手ですけど、何よりも俺はあの国の薬学を知りたいんですよね」  僕の言葉にそう返し、シリルさんは目を輝かせる。 「あの国はかつて『万薬の国』と呼ばれたほどに薬学が発展していたんですが、その技術のほとんどを秘匿、独占していて俺たちには知る機会がなかったんですよ」 「な、なるほど。それは確かに気になりますね」  勢いに押されつつ同意すると、シリルさんは嬉しそうに大きく頷いた。 「はい! だからむしろ、あの国の技術を見られる可能性にわくわくしてるくらいです」  そう言ったシリルさんは研究者の顔をしている。 「他の職員もみんな同じですよ。どいつもこいつも、あの国への遺恨より技術のほうが気になって仕方ないんです」 「そ、そうなんですか……」  さすが研究者、という言葉は飲み込んだ。  なんであれ、ロビス試験場が味方になってくれるのはとても心強い。 「……ありがとうございます。みなさんの期待に応えられるよう、頑張ります」 「こちらこそ、ありがとうございます。応援していますよ」  改めて言葉と握手を交わし、揃って退室する。  そして廊下で待機していたミラドールさんと合流し、いつものように護衛されながら大公邸へと戻った。  
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