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初回の授業以降、五日おきの授業の合間に中和剤の研究を進めている。
どちらの進度もまずまずといったところだ。
授業のほうは七回目にして四人全員が完璧で手早い付与を習得し、次回からは魔法薬の製法の暗記をしてもらうことになっている。
その間にトリシアさんは例の解毒薬の製法を暗記し終え、今は安定して作れるように回数を重ねているところだ。
僕はというと、解毒薬と同じ方法で中和剤を作るのが一番安定しそうなため、あらゆる毒の中和剤を魔法薬で揃えるべく試行錯誤を繰り返している。
「魔法薬って、力技みたいなところありますよね」
休憩中の雑談で中和剤の製法を話した際にトリシアさんが言ったこの言葉は、本当にその通りだと思う。
しかし、力技でも薬として成立するならそれでいいのだ。
その力技で守られる命や救われる魂が確かにあるのだから。
――と、そんなことを話しているうちに話題は僕の研究の進捗へと転がっていった。
「そういえば、研究はどうですか? 解毒薬の時よりは調子いいみたいですけど……」
「はい、今のところは順調ですね。僕の研究より先に生徒さんたちが解毒薬の製法を習得しそうなところが不安といえば不安ですけど」
「ああ……生徒のみなさん、優秀ですもんね」
早く習得してくれるのはありがたいしとても嬉しいのだけど、僕がこの国にいる口実が無くなるのは望ましくない。
「……まあでも、できる限り努力はしますし、ちゃんと完成させるつもりですけどね」
「あたしもお手伝いするので、遠慮なく相談してくださいね!」
「ありがとうございます。頼もしいです」
そんなふうに話しながら休憩時間を過ごし、そして再びそれぞれの作業へと向き合う。
猶予は短いかもしれないし、完成しないかもしれない。
それでも、不思議と悲観的にはならなかった。
今僕が抱いているのは「絶対に完成させる」という決意だけだ。
そこに絶望が付け入る隙はない。
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