死の黒き手を払う薬

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 いくら才能があるといっても、時間がかかるのは当たり前のことだ。  初めて触れる技術や文化であれば尚のこと。 「……難しいな。魔力は乗ったけど明らかに弱い」  うっすらと魔力の乗った液体を見下ろして、ノルドさんがため息をついた。  今回で授業は十五回目。魔法薬の製法を暗記した人から僕の開発した魔法薬の練習を進めてもらっているのだけど、初めての魔法薬に四人とも苦戦している。  一度は完成させられたものの、安定した品質の魔法薬を作るのが難しいらしい。  無理もない。粉砕撹拌機の速度や回転数によって魔力の乗り方は少しずつ変わってくる。  彼らは今、もっとも適した速度と回転数を掴もうと奮闘しているところのようだ。  こればっかりは本人の感覚なので的確な助言はない。  やりながら感覚を掴んでください、としか言いようがないのだ。  集中する四人を見守り、時折手本を求められて魔法薬を作っているうちにあっという間に終わりの時間が来てしまった。  完成した魔法薬は四人合わせて五つ。挑戦回数に対してこの数はまだまだ少ないほうだ。  ……単純な日数で考えれば、充分すぎる数ではあるけれど。  正直にそう話すと四人は悔しそうな、それでいてどこか楽しそうな表情を見せた。 「……やりがいがあります」  誰かのそんな呟きが小さく聞こえた。  自己練習ではくれぐれも無理はしないようにと伝え、解散する生徒たちを見送った後にトリシアさんと軽く話し合う。 「トリシアさんの時もそうでしたけど、みなさん完成させられるのが早すぎるんですよ。もちろん本人の努力はあるんですけど、環境や種族の違いはやっぱり大きいと思いました」 「ああ、前にも言ってましたよね。人間よりも人魚のほうが種族的に魔法薬学に向いてるって」  どうやら覚えていてくれたらしい。 「ええ。人間()の十年が人魚(トリシアさん)だと三年ですからね。魔法薬学にとって人魚は可能性の塊ですよ」 「ひ、ひい……恐縮です……」  そんなことを話し、そして締める。  細かい話し合いはまた明日だ。  
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