死の黒き手を払う薬

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「……そういえば、あれってどうなりました?」  そろそろ話を切り上げて作業に戻ろうというところでトリシアさんが思い出したように問うた。 「え? 何かありましたっけ?」 「ほら、みなさんの付与練習に使った苦い海藻ですよ。確か大公さまにご相談するって言ってませんでした?」 「ああ、あれですか……」  トリシアさんの何気ない言葉にキュッと胃が痛くなる。 「ご、ごめんなさい、聞いちゃいけないことでした?」 「いえ、大丈夫です。ちゃんと相談しましたし、対応してもらえることになりました」  それは遡ること二月と数日前。  初回の授業後に、付与練習で大量に作った苦い海藻を再利用できないかとネルソンさんに相談したのだ。  たとえ話として陸の誤飲防止策を話したところ、難しい表情と声が返ってきた。 「この国では陸と同じような使い方は難しいだろう」  言われてみればそうだ。  上手く加工しなければ海中に拡散して思わぬ被害を生むだろうし、加工しすぎて味が薄れたら意味がない。  そもそも加工に手間がかかりすぎては広められず、結果として消費できなくなる。  ではやはり処分するしかないだろうかと考え込んでいると、ネルソンさんは表情を動かさずに言った。 「サメ除けはどうだ」  例の如く言葉が少なすぎて何がどうなってその発言になったのかを聞くと、ネルソンさんは淡々と話し始める。 「従来のサメ除けは有効だが万能ではない。万が一サメに接近された際、件の海藻を口へ放り込んでやるのはどうだ」  想像して口の中が苦くなった。  けれど、悪くはないかもしれない。  無闇にサメを傷つけることはないし、人魚の身も守れる……かもしれない。  しかしそうなると僕は専門外だ。  詳しいことはすべてお任せ(丸投げ)して、今はその結果待ちである。  ――と、いうのを授業やら研究やらで半分ほど忘れていた。  未だ何の報告もないのも忘れた理由になるかもしれない。  
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