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「すみません、相談したことも伝えておくのも忘れていました」
正直にそう言うと、トリシアさんは真剣な顔で言った。
「それは別にいいんですけど……それ、大ごとになりそうじゃないですか?」
「やっぱりそう思います?」
僕の問いにトリシアさんは首を縦に振った。
「サメ食害って本当に多いんですよ。知り合いの漁師さんが『サメ除けがあっても漁は命がけだ』って言ってましたから」
それは少し分かるかもしれない。
ラニ村だって、獣除けで獣害は減らせても完全には無くならなかった。
頷くと、トリシアさんは頷き返して言葉を続ける。
「サメを撃退する手段は需要があるはずなんです。海藻ジュースほどじゃなくても、たぶん国中の人魚が買い求めてきますよ」
「漁師じゃない人もですか?」
「街中にサメがやってくることもまれにあるので、備えに買っておく人は多いと思います。何ならあたしもほしいくらいです」
「そ、うですか」
真顔で言い切られ、思わず言葉が詰まった。
そこまで需要が見込めるなら、確かに大ごとになるだろう。
「気になるのは、使うのにそれなりの技術が必要そうなところですね。上手くサメの口の中に放り込めたらいいですけど、すごく難しそうですし……」
「その辺りを解決するのに時間がかかってるのかもしれませんね」
半ば現実逃避しながらそう返し、どことなく遠くを見る。
(僕はただ、海藻がもったいないから何かに使えないかと思っただけなんだけど……)
海の民ならではの悩みと需要があるのだと、改めて思った。
「……それにしても魔法薬ってすごいですね。海藻がジュースになったりサメ除けになったり、全然知らないものに変わっちゃうんですもん!」
「正確には魔法薬の副産物ですけど、確かに魔力付与の技術は素晴らしいものだと思います」
そしてこの技術がレイディヴァトに広まれば、魔法薬学もきっと広まっていくだろう。
……と思うことで、この大ごとになりそうな案件をなんとか飲み込むとしよう。
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