死の黒き手を払う薬

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 深く息を吸い、長く吐く。 「……少し話しすぎましたね。そろそろ手を動かしましょうか」 「そうですね。すみません、色々聞いちゃって……」 「大丈夫ですよ。むしろ聞いてくれてありがとうございます」  聞かれなければずっと忘れたままだっただろうから、聞いてもらえてよかったというのが本音だ。 「それじゃ、お互い頑張りましょうね」 「はいっ! 頑張ります!」  これまでを切り替えるように言葉を交わし、それぞれの作業へと移る。  研究は概ね順調だ。  死黒手の複数ある毒に対応するであろう中和剤を一つ作り上げ、分析結果を待ちながら次の中和剤を考えている。  どちらも死黒手に含まれる毒の解毒薬を少し改変しただけのもので、考えに考えた結果大きく遠回りをしてここにたどり着いたのは少し前のことだ。  いくつかの材料を入れ替えたり加えたりして、回転数や速度を調整する。  解毒薬と中和剤では求める効果が違うので、いくつかの素材はまったく別のものと入れ替える必要があったのだ。  もともと繊細な組み合わせで成り立っていた魔法薬の改変は簡単ではなかったけれど、どうにか魔法薬として成立はしたので望み通りの効果があると信じたい。 (いや、魔力は乗ったんだからちゃんと中和の効果があるはずなんだけど……)  魔法薬師を名乗ってはいるし、この国で魔法薬学を教えてはいるけれど、僕だってまだまだ未熟者なのだ。  だから結果が出るまで不安でしょうがないし、結果が出るまでは何も分からない。 (……いや、大丈夫。失敗しても大丈夫)  そう自分に言い聞かせ、作った中和剤を作業台に置く。  空のように明るい青が瓶の中で小さく揺れた。  懐かしい色を眺めながらも、頭の中では次の組み合わせが浮かぶ。  以前のように劣化することだってあるのだから、細かく条件を変えてたくさん作り、最適解を見つけ出す。  完成したら、回を重ねて練度を上げる。  十六年前(隠れ家の時)から変わらない、僕のやり方だ。  
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