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「なんだか落ち着く色ですね」
見慣れた海の色に似ているからだろうか。
甕の中で揺れる深い青色を見つめ、トリシアさんが言った。
「でも、魔法薬でこういう濃い色になるのは珍しいんですよね?」
「そうなんです。光の魔力を含むため、ほとんどの魔法薬は明るい色をしているんですが……」
どういうことだろうと思いながら、甕の中の濃青をじっくり観察する。
深く濃い色をしているけれど、透き通っている。
見て分かるのはたったそれだけ。
(見れば見るほど、魔法薬っぽくないんだよね……)
どちらかといえばレイディヴァトの薬のような色だ。
「……何にしても、試験場に細かい分析をお願いするしかないですね。この色の理由も分かるかもしれませんし」
言いながら甕の中身を瓶へ移し替える。
ただ薬瓶に容れただけなのに、海を掬い取って閉じ込めたような――芸術品のような美しさがあった。
(瓶の形が違ったら、もっと印象が変わるかもしれない)
飾るのが目的ではないのだけど、この魔法薬に似合う形の瓶があったら試してみたいところだ。
(でも、装飾用の瓶って大体が使いにくいからなあ……じゃなくて)
脇道にそれた思考を戻し、瓶を保管箱へしまう。
そしてトリシアさんを向かいの席へ促し、話を切り出した。
「……さて、明日は授業がありますからその準備をしましょうか」
「分かりましたっ!」
準備といっても大がかりなことは何もない。
前回の授業を思い出しながら改めて明日の授業内容を話し合ったり、生徒たちの進度について感想を言い合ったりするだけだ。
「みなさん順調に魔法薬を完成させてますし、そろそろ授業の終わりも近いかもしれませんね」
さすがにまだ数回は必要だろうけど、それももう両手で数えられるくらいで済むだろう。
それを聞いていたトリシアさんはわずかに眉尻を下げ、呟くように言った。
「……寂しくなりますね」
その一言には、おそらくたくさんの意味がこもっている。
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