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「……そう、ですね」
授業を通して知り合い仲良くなった生徒たちとの別れもあるし、僕も陸へ帰る。
それを寂しいと思うのは僕も同じだ。
ラニ村に帰りたいのは変わらないけれど、レイディヴァトで知り合った人たちとの別れを惜しく思う気持ちが確かにある。
色々あったけれども、僕はすっかりこの国に愛着が湧いてしまったのだ。
「……機会があれば、また来ますよ」
気がつけばそんなことを言っていた。
「レイディヴァトとリグナールは国交がありますから、きっと機会はあります。その時は陸の薬をお土産に持っていきますね」
そんな機会に恵まれるかどうかは分からないけれど、永遠の別れにはならないと信じよう。
「……だっ、だったら! だったらあたしも陸に行きますよ! 陸の薬も勉強したいし、陸のおいしいものも食べたいですし!」
「ああ、いいですね。それならちゃんと美食どころを案内できるように調べておかないと」
そんなふうに未来の話へ脱線しながら、あえて戻さずに話を続ける。
「ちなみにヴァン先生のおすすめって何があるんですか?」
「あまり栄えた街を歩いたことがないので流行り物は分からないですけど、僕の住んでいた村のパン屋さんは外せないですね」
そう答えると、トリシアさんは目を輝かせた。
「パン! 聞いたことあります! たしかすごくふわふわしてるんですよね?」
「そのお店のパンはそうですね。でも土地によっては固いものや弾力のあるものも食べられているらしいですよ」
「わあ、面白そうですね!」
興味津々といった様子で身を乗り出し、トリシアさんは言う。
「あたし、絶対に陸へ行きます! 全種類のパンを制覇しに! あ、あと陸の薬の勉強も!」
「あはは、長期戦になりますよ。薬の種類もパンの種類も、たくさんありますから」
明日の授業の話し合いなんてそっちのけで、楽しい陸旅行計画は盛り上がった。
……盛り上がりすぎて、またミラドールさんが様子を見に来るまで話し込んでしまったけれど。
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