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中和剤の分析結果が届けられたのは依頼を出してから十五日ほど経った日の授業後だった。
「つい先ほど結果が出たところです!」
いつかの解毒薬の時のように、アデラールさんは満面の笑みを浮かべて分析結果を渡してくれたのだ。
結果は期待通り。
しかしかの海の詳しい汚染状況が不明なため、この中和剤が有効かどうかは分からないとのこと。
「こればかりは実際に試してみなければ分からないことですが……私たちロビスはその中和剤の可能性を信じています」
そう言って、アデラールさんは一礼し去っていった。
部屋に残ったトリシアさんと二人で、渡された貝殻を眺めながら話し合う。
「一応、完成はしましたけど……」
「試してみないとまだ分からないんですよね……」
かの海の汚染が、変質した死黒手によるものだとしたらこの薬は役に立たない。
「どうするんですか?」
「何にせよ大公様に報告ですね。その上で実地試験ができないかを相談してみます」
さすがに危険だと言われるかもしれないけれど、どう反応してどんな結果になるかは自分の目で確かめ、見届けたいのだ。
これは僕のわがままで作られた薬なのだから。
「……あの、もし実地試験をやるならあたしも見学させてもらえますか?」
控えめに、しかし決意をのこもった表情でトリシアさんは言う。
「魔法薬師として、ヴァン先生の助手として、あたしも見ておきたいんです」
「分かりました。それも含めて大公様に相談してみます」
そう返すと、トリシアさんは安心したように表情を綻ばせた。
「ありがとうございます! 話が決まったらまた教えてくださいね!」
「はい。いい結果になるよう、頑張ってきます」
僕たちが実地試験に立ち会えるかどうかは、僕の交渉にかかっている。
(どうにか許可がもらえないかな……)
そんな不安を胸の内へ隠し、試験場を出て大公邸へと戻った。
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