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「すみません、中和剤が有効かどうかはまだ分からないんです。今日の実地試験も、それを確かめるためのもので」
「ええ、ええ、そうでしたな。泣くのはかの海を泳いでからにしましょう」
そう言ってヤニックさんは口角を吊り上げ、いつものように陽気な笑顔を見せた。
「さあて、私も負けていられませんな! しっかり休憩をとって、この魔法薬を失敗なく作れるようにならねば!」
「ありがとうございます。応援しています」
明るい声にそう返し、人数分のグラスを並べて休憩を始める。
休憩中も、雑談のように質問がかけられた。
海藻ジュースを飲みながら、単純な興味からの質問にも、授業内容についての質問にも知る限り答え、談笑する。
受けがいいのはやはり陸の話だ。話だけでも異文化に触れるのは刺激があるらしく、話すたびに彼らは新鮮な反応をする。
知らないことが多くてあまり詳しくは話せないけれど、それでも充分だと言ってくれた。
「……いつか行ってみたいですね、陸」
「ならこの五人で行きましょうよ!」
「えっ、あたしも一緒でいいんですか?」
「それはいけません。魔法薬を作れる人がいなくなってしまいますわ」
「となると、みんなで行くのは他の連中にしっかり教えてやってからになりますなあ」
ここでも陸旅行計画が持ち上がり、話が盛り上がる。
どうやら見知らぬ土地には惹かれるものがあるらしい。
「そうですね。光の魔力が必須にはなりますけど、色んな方に魔法薬学を広めて、誰が旅行に出ても困らないようになってほしいです」
「もちろん! しっかり身につけて、弟子連中に叩き込んでやりますとも!」
「俺もロビスの職員に教えてやらないとですね!」
「あ、あたしも頑張りますよっ!」
「じいちゃん、俺も手伝うから」
「わたくしもしっかり魔法薬学を広めていきますわね」
心強い返事に胸が熱くなる。
「ありがとうございます。頼もしいです」
安心して陸に帰れると思うと嬉しい反面、少し寂しくもある。
けれどそれは飲み込み、空になったグラスを片づけた。
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