死の黒き手を払う薬

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「さて、そろそろ再開しましょうか」  全員分のグラスを片づけ、再び四人は魔法薬の練習に励む。  授業を始めたばかりの頃のような失敗はすっかり減り、今は感覚を掴むのも早くなってきた。  この調子ならもう一年もかからないだろう。 (……それまでに、中和剤の改良をしないと)  今日の結果次第では一年じゃ足りないかもしれないけれど、やるしかない。  ネルソンさんは、僕ならできると信じて猶予を作ってくれたのだから。 (……うん、頑張ろう!)  何にしても、今は授業優先だ。  集中して調薬している四人をよく観察し、質問があれば答え、場合によってはまた手本を見せる。  そうして時間は過ぎ、そろそろ終わろうかと口を開きかけた瞬間に扉が強く鳴った。 「授業中に失礼します! ヴァーミリオンさんに急ぎの報告です!」  直後に扉が勢いよく開き、息を切らしたアデラールさんの声が飛び込んできた。 「どっ、どうしましたか!? 何か事件でも――」 「大事件ですよ!」  僕の声を遮る勢いでアデラールさんは言い、一欠片の石ころを差し出した。 「こちら、大公様からの急ぎの報告です!」 「は、拝読します!」  勢いに押されるままそれを受け取り、彫られた文字を読む。  とりあえず落ちていた石に書き付けたようなには、走り書きながら整った一文があった。 『除染された』  文字でも相変わらずの短い言葉だけれど、仮に長々と書かれていたところで僕はしばらく理解できなかっただろう。  声すら出ず、何度もそれを読み返す。  除染。除染とは、汚染された物質、空間等から汚染を取り除くこと。  ……つまり、だ。 「……えっ、え?」  ようやく漏れたのはそんな間抜けな声で、それを拾ったらしいアデラールさんが興奮気味に言った。 「おめでとうございます、ヴァーミリオンさん! あの中和剤は完成していたんですよ!」  
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