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「何も動揺することはないでしょう。私もジュースは愛飲していますし、サメ撃退薬も常備していますよ」
「そ、うですか。その、ありがとうございます……」
ありがたいけれど、大したことはしていないはずなのだ。
あと海藻ジュースはほとんどトリシアさんの功績である。
「ところで、ヴァーミリオンさんはこれからどうするおつもりです? 研究は終わりましたし、授業のない日はお暇でしょう?」
「ああ、そうでした。それについてネルソンさんに相談があったんです」
忘れかけていた話題を引っ張り出し、ネルソンさんへ向き直る。
「これから二月、授業のない日はトリシアさんや生徒のみなさんがレイディヴァトを案内したいと提案してくれまして」
思えば、僕はこの国に来てから観光らしい観光をしていない。
審問の後にちょっと薬屋を覗いただけで、この国の街並みは移動の際に少し見下ろすばかりだったのだ。
「なので、みなさんの予定が合う日はこの国を観光したいと思うんですけど、いいでしょうか?」
「構わない。護衛は付ける」
「ありがとうございます」
相変わらずの即答に思わず笑みが漏れる。
「……すみません。ネルソンさんはいつもお優しいなと思いまして」
「……そうか」
視線を感じて謝ると、ネルソンさんはそれだけを言って視線を逸らした。
ネルソンさんにしては珍しい振る舞いだ。
「サーシャル閣下は誤解されやすい方ですので、あまりお優しいと言われ慣れていないのですよ」
なるほど、確かに口数が少なくあまり表情が動かないネルソンさんを誤解する人はいそうだ。
こうして付き合いがあればすぐに誤解だと気づけるだろうけど、ネルソンさんの身分ではそれも難しいのだろう。
「ニーエル、喋りすぎだ」
「ふふふ、申し訳ありません」
わずかに不満のにじむ声にニーエルさんは笑みを返す。
長い付き合いを感じさせる会話に、どれほどの付き合いなのだろうかと興味が湧いた。
けれど、一度はぐらかされたそれを改めて聞くのは野暮というものだろう。
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