五年と十月越しの観光

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 それからしばらくは、不老不死の秘薬の製法を覚えながら大公邸でのんびりと過ごしていた。  僕が薬屋に行く理由が授業の打ち合わせ以外になくなってしまったからだ。  そのため薬屋に行くのは授業の前日と翌日だけで、それ以外の日はひたすらに製法の暗記をしている。  ……のだけど、今日は違った。  以前から約束していた、レイディヴァトを観光する日がとうとう来たのだ。  案内してくれるのはトリシアさんとシリルさんとノルドさんで、そこに護衛のミラドールさんが加わった五人となる。  キルダさんは家の都合が、ヤニックさんはお弟子さんとの都合が合わなかったため今回はいない。  二人とも参加できないことをとても残念がっていた。  待ち合わせはいつもの薬屋前で、ミラドールさんに連れられて向かうとすでに三人が待っていた。 「こんにちは。お待たせしました」 「いえいえ! あたしがちょっと早く来ちゃっただけですから!」 「大丈夫です。今来たところです」 「俺もついさっき着いたとこなんで大丈夫ですよ」  三者三様に言い、嬉しそうに顔を綻ばせる。 「それじゃ、さっそく行きましょう!」  トリシアさんを先頭に、連れられるがままに進む。  行き先は相談済みなのか、シリルさんとノルドさんにも迷いはない。  しばらく進んでいるうちに景色は商店立ち並ぶ通りへと変わり、人魚の数が増えてきた。  ガルモのように行き交う人は多く、賑わっているのが分かる。 「この通りの先に、おすすめのお店があるんです!」 「へえ、そうなんですね」  トリシアさんの声を聞きながらも、初めての観光に思わず視線があちこちへ飛ぶ。  何人かと目が合うと、驚いた表情の後に笑顔で手を振ってくれた。  来たばかりの時には考えられなかった反応だ。  軽く会釈し、手を振り返す。  すれ違うたびにそうしていると、やがてトリシアさんは速度をゆるめた。  
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