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「ここがあたしのおすすめのお店です!」
そう言いながらトリシアさんが指した建物の看板には『ミール海藻店』と書かれている。
「ここの海藻は安くておいしいんですよ。ヴァン先生には是非一度食べてみてほしくて!」
「それは気になりますね。楽しみです」
さっそく扉を開け、店内へ入る。
真っ先に目に飛び込んできたのは木のようにそびえる海藻で、それは店の真ん中に堂々と鎮座していた。
「いらっしゃいませ」
その海藻の陰からひょいと顔を覗かせたのは優しそうな顔つきの女性で、トリシアさんの姿を確認するとパッと顔を綻ばせる。
「おや、トリシアちゃんじゃないか。そちらはお友達かい?」
「オルフィーネさん、こんにちは! この人たちは魔法薬学の先生と同志です!」
トリシアさんと女性は顔馴染みのようで、にこやかに会話が進む。
「魔法薬学っていうと、あれかい? 禁泳区画を除染したっていう……」
「そうです! こちらのヴァン先生……ヴァーミリオン先生が中和剤を開発した魔法薬師です!」
トリシアさんの紹介に合わせて軽く会釈し、驚いたように目をみはる女性へ向き直った。
「初めまして、魔法薬師のヴァーミリオンといいます」
「あらあ!」
簡単にそう名乗ると女性はそんな声を上げ、満面の笑みを浮かべる。
「ミール海藻店へようこそ! わたしは店長のオルフィーネです。お会いできて光栄です」
「あ、ありがとうございます」
差し出された手を取り、握手を交わす。
力強く、優しい握手だった。
「結界はあってもいつか死黒手が広がってくるかもしれないって、ずっと不安だったんですよ。本当にありがとうございます」
オルフィーネさんはそう言い、数度瞬きをしてわずかに曇った表情を笑みの形に戻す。
「ヴァーミリオン先生、今日はとっておきを用意させてもらいますね。なんたって、この国の恩人ですもの。中途半端な品は出せないわ!」
僕の手を握ったまま、オルフィーネさんは力強くそう言った。
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