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商品を用意してきます、とオルフィーネさんが店の奥に消え、店内は一気に静かになる。
「オルフィーネさんが戻ってくるまで他の商品を見てましょうか」
というトリシアさんに同意して、陳列棚に並べられた海藻を順に見ていく。
どれも研究でお世話になった海藻ばかりだ。
(……そういえば、材料にはしたけど食べたことないや)
せっかくだから気になる海藻も一緒に買って食べ比べてみよう。
そんなふうに考えていると、いくつかの箱を抱えたオルフィーネさんが戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが当店のとっておきです」
目の前に置かれた箱の蓋をオルフィーネさんが開ける。
中身は赤みがかった茶色の海藻だ。魔力を付与しても反応がなかったのを覚えている。
「こちらは海藻の中でも特に栄養を多く含み、また味もいいと評判の品です。トリシアちゃんから、先生は魚が苦手と聞きましたので少しでもお体にいいものをと思いまして」
魚というよりは生の魚が苦手なのだけど、今は関係ないので黙っておく。
「品質だけでなくそんな気遣いまでしてくださるなんて、ありがとうございます」
素直に感謝を伝えると、オルフィーネさんは堂々と、自信に満ちた笑みを浮かべ言った。
「物を売る者として当然のことですから!」
その一言に、彼女の商売人としてのプライドが見えた気がする。
もちろんその海藻は買い、魔法薬に使った海藻も合わせて買わせてもらった。
トリシアさんの言った通り、値段は非常に優しい。
「本当にこのお値段でいいんですか?」
「いいんですよ。おいしいものをみんなに食べてもらいたいからこの値段なんです」
思わず口をついて出た疑問にオルフィーネさんは満面の笑みでそう答えた。
「それに最近はサメ食害が減ってきてますから、海藻の収穫量が少しずつ増えているんです。ここまでお安くできるのはそれもあるからなんですよ」
「そ、そうだったんですね」
思わぬ話題に何とか平静を保ってそう返す。
あの味を口に放り込まれるサメには少し同情するけれど、ちゃんと命が守られているようで安心した。
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