五年と十月越しの観光

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 また来ますと約束をしてオルフィーネさんの店を出発し、今度はノルドさんの案内で商店街を進む。  賑わっている場所から離れるように路地を右へ左へ曲がり、すっかり静かになったところでノルドさんは速度をゆるめた。 「――俺のおすすめはこの店です」  そう言ってノルドさんは、こぢんまりとした建物の入り口をくぐる。  それに続いて入った先には、色んな形、色、大きさの筆記具がずらりと並んでいた。  どうやらここは筆記具店らしい。 「ナポロさん、いる?」  ノルドさんの声に、部屋の奥の暗がりで大きな影が動く。 「おう。どうしたノル坊」  のっそりと現れたのは立派なヒゲを蓄えた恰幅のいい男性で、彼はノルドさんと僕たちを交互に見て言った。 「この人たちは友達か?」 「うん。マッキャロル先生とリーデン先生が魔法薬学の先生で、シリルさんは俺と同じ生徒なんだ」 「おお、そうかそうか! この方たちか!」  ノルドさんの返答に男性は目を細め、ぺこりと頭を下げる。 「初めまして、ヤニックとノル坊から話は聞いとります。わしはステイリー筆記具店のナポロという者です」 「初めまして、魔法薬師のヴァーミリオンです」  順番に挨拶を交わし、握手を交わすとナポロさんはくしゃりと表情を歪めた。 「……ヴァーミリオン先生、本当にありがとうございます。これでやつも報われるでしょう」  やつとは、きっと例の研究者のことだろう。 「はい。そうであればいいと思っています」  そう返すと、ナポロさんは泣きそうな顔で笑った。 「ええ。それにしても、生きてる間に除染が叶ってよかった。これでまた一つ、やつへの土産話が増えました」  涙声ながら、明るい声だった。  どうやら思った以上にあの海の汚染はレイディヴァトの人たちに暗い影を落としていたようだ。  僕の魔法薬がそれを晴らす一助になれたのなら、これ以上光栄なことはない。 「……ヴァーミリオン先生、どうかやつの……トライドの話を聞いてくれませんかね」 「はい。ぜひ教えてください」  あの研究記録を残した研究者の人物像には興味がある。  一も二もなくそう返すと、ナポロさんは嬉しそうに目を細め、昔を思い出すように話し始めた。  
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